まず結論から
- 控除限度額の計算式は「その年の所得税額 × (国外所得 ÷ 総所得)」
海外所得の割合に応じて、どこまで税額を差し引けるかが決まります。

- NISAを使うと控除枠が減る:
NISA口座の配当は国内では非課税ですが、外国で取られた税金(米国10%など)は戻りません。

- 住民税でも控除できる:
所得税で使い切れなかった分は、住民税で控除可能。ただし上限は「県民税12%+市民税18%」まで。政令指定都市では「6%+24%」になります。

控除限度額って何?
海外株の配当や売却益には、現地でまず課税されます(米国なら10%)。
さらに日本でも課税されると「二重課税」になってしまいます。

これを調整するのが外国税額控除です。
ただし無制限に引けるわけではなく、次の式で「上限」が決まっています。
所得税控除限度額
= その年の所得税額 ×(国外所得 ÷ 総所得)
- 国外所得:米国株配当など、海外で課税された所得の合計(控除前)
- 総所得:給与・事業収入など全部の合計(控除前)
- 所得税額:住宅ローン控除や配当控除を差し引いた後の最終的な税額
つまり「所得税額 × 海外所得の割合」が上限になる、という仕組みです。

NISAを使うとどうなる?
ここが大きな落とし穴です。
NISA口座で受け取った配当は日本では非課税。
だから総所得や国外所得には含まれません。
その結果、控除限度額の分子・分母からNISA分が抜け落ち、控除できる額が少なくなってしまいます。つまり、NISAの配当から引かれた外国税(米国10%など)は取り戻せないのです。
✅ NISAは「日本の税金がゼロ」になる制度。
❌ 「外国の税金もゼロになる」わけではありません。
住民税の扱い
外国税額控除は住民税でも使えます。
ただし、こちらにも上限があります。
- 県民税:控除限度額の最大12%
- 市民税:控除限度額の最大18%
- 政令指定都市:県民税6%、市民税24%
つまり合計で30〜42%の範囲で控除が可能です。
よくあるつまずきポイント
- 「総所得金額」と「課税所得金額」の混同
→ 限度額の計算に使うのは「総所得金額(控除前)」です。 - 所得税額の取り方
→ 各種控除を引いた「最終的な所得税額」を使います。 - NISA分の扱い
→ 分子にも分母にも含めません。ここを間違えると控除額を多く計算してしまいます。
計算式に使う3つの数字
外国税額控除の「限度額」を求めるには、次の3つの数字を正しく理解することが大切です。
① 総所得金額
- 給与や事業収入など、すべての所得の合計
- 控除を引く前の金額を使います【nta.go.jp】
- 給与所得者なら、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」が目安です
👉 よくある勘違い:課税所得(控除を引いたあとの額)を使ってしまうこと。ここは総所得を使います。
② 調整国外所得金額
- 外国で課税対象となる所得の合計
- これも控除を引く前の金額
- NISA口座で受け取った配当は含めません(国内で課税されないため)
③ その年分の所得税額
- 配当控除や住宅ローン控除など、各種税額控除を反映した最終的な税額
- 復興特別所得税も含みます
計算例(擬似コード)
例えば次の条件の場合:
- 年収など総所得金額:500万円
- 米国株配当(国外所得):100万円
- 最終的な所得税額:60万円
total_income = 5000000 # 総所得金額
foreign_income = 1000000 # 国外所得
income_tax = 600000 # 所得税額(控除後)
limit = income_tax * (foreign_income / total_income)
# → 600000 * (1000000 / 5000000) = 120000円
この場合、控除できる上限は12万円となります。
確定申告書では「外国税額控除」の欄に、この上限額と実際に払った外国税額(証券会社の通知書に記載)を比べて、小さい方を記入します。

NISAを使ったときの落とし穴
NISA口座で受け取った配当は日本では非課税。
しかし外国で課された税金(米国株なら10%)はそのまま残ります。
例:米国株配当10万円の場合
- 米国で10%(1万円)が源泉徴収
- 課税口座ならさらに国内課税があり、控除で調整可能
- しかしNISA口座なら国内課税ゼロ。米国の1万円は控除できず、そのまま負担です
👉 このNISA分の配当は、計算式の分子(国外所得)にも分母(総所得)にも入りません。そのため控除枠が小さくなり、同じ外国税を払っていても取り戻せない部分が増えるのです。
ケース別:控除限度額で手取りはどう変わる?
ケースA:課税口座のみ
- 条件:配当100万円、米国源泉税10万円、日本の税20万円
- 計算:総所得1,000万円・所得税200万円 → 限度額20万円
- 結果:米国税10万円は全額控除 → 国内税から10万円戻る
👉 手取り率:約90%
ケースB:NISA+課税口座併用
- 条件:配当100万円のうち20万円はNISA、米国源泉税10万円(うちNISA分2万円)
- 計算:総所得980万円・所得税196万円 → 限度額16万円
- 結果:課税口座分の米国税8万円は全額控除。ただしNISA分2万円は戻らない
👉 手取り率:約88%(NISA部分の負担が残る)
ケースC:総合課税(配当控除あり)
- 条件:配当100万円、配当控除で所得税額が200万→192万円に減少
- 計算:限度額19.2万円(少し縮小)
- 結果:米国税10万円は全額控除。さらに配当控除で国内税が軽くなる
👉 手取り率:約92%
ケース | 状況 | 手取り率(概算) |
---|---|---|
A | 課税口座のみ | 約90% |
B | NISA+課税口座 | 約88% |
C | 総合課税+配当控除 | 約92% |
住民税での扱いと「申告不要制度」
- 所得税で使い切れなかった控除分は、住民税で調整可能。
- 都道府県民税:最大12%(政令市は6%)
- 市町村民税:最大18%(政令市は24%)
- 余った控除枠は最長3年間繰り越し可能。
ただし注意点があります。
2023年分申告(2024年度の住民税)からは、所得税と住民税の課税方式が必ず一致するルールに変わりました。
つまり「所得税は申告、住民税は申告不要」という組み合わせは選べません。
👉 結論:外国税額控除を受けたいなら、必ず確定申告が必要。申告不要にすると住民税でも控除は受けられません。
確定申告のステップとチェックリスト
外国税額控除を受けるには確定申告が必須です。
ここでは準備から提出までの流れをまとめます。
1. 必要書類をそろえる
- 証券会社の書類
「特定口座年間取引報告書」や「外国株式配当金支払通知書」など。
👉 外国源泉税額が必ず記載されています。 - 外国税額控除明細書
国税庁サイトからダウンロード、または税務署で入手できます。
👉 外国所得の内訳や計算結果を記入する専用用紙です。 - その他証明書類
外国税額・課税国・納付日が確認できる取引報告書や外国の納税証明書など。
2. 申告書・e-Taxで入力
- 確定申告書B・第一表
「税金の計算」欄に、- 計算式で求めた控除限度額
- 実際に払った外国税額
を記入。必要に応じて復興所得税欄にも記載します。
- 外国税額控除明細書
外国所得の内訳・計算結果を記入し、申告書に添付します。
👉 e-Taxならオンライン添付が可能です。 - 課税方式の選択
配当所得は「総合課税(配当控除あり)」か「申告分離課税」を選択。
👉 すべての配当所得で方式を統一する必要があります。
3. 添付・提出
- 添付書類:外国税額控除明細書+証券会社の報告書類
- 提出方法:紙で税務署に提出、またはe-Taxでオンライン提出(添付書類はPDF可)。
- 提出後は、住民税の計算にも自動的に反映されます。
✅ チェックリスト
- 証券会社の報告書に外国源泉税額が記載されているか
- 外国税額控除明細書を国税庁HPから入手・記入したか
- 課税方式(総合/分離)を決定し、全配当所得で統一しているか
- 所得税で配当を申告しているか(→ 住民税の計算にも連動)
- e-Taxまたは確定申告書で「外国税額控除」欄に数値を入力し、明細書を添付したか
FAQ:外国税額控除とNISAの実務でよくある質問
Q1. 配当控除(総合課税)と申告分離課税のどちらを選ぶべき?
A: 一概にどちらが有利とは言えません。
- 総合課税+配当控除 → 国内税率は下がるが、控除限度額も小さくなる
- 申告分離課税 → 税率は高めだが、控除限度額は大きくなる
👉 年収や他の控除によって有利不利が変わります。選んだ方式で国内外すべての配当を統一してください。
Q2. NISA口座で受け取った配当の外国税額控除は?
A: 受けられません。
NISA配当は日本で非課税なので申告対象外です。そのため外国で引かれた税(米国10%など)は全額負担になります。
Q3. NISA株を年内に売却したら、控除計算に影響は?
A: 売却後の配当がなければ影響なし。
控除対象は「その年に実際に受け取った配当」に限られます。売却後に配当が発生しなければ追加申告は不要です。
Q4. 住民税の「申告不要制度」を選ぶとどうなる?
A: 外国税額控除は使えません。
「申告不要制度」では住民税で控除を申請できません。さらに2024年以降は所得税と住民税の方式を一致させる必要があるため、外国税額控除を受けるなら所得税・住民税ともに確定申告が必須です。
Q5. 特定口座(源泉あり)なら申告不要では?
A: 還付を受けたいなら申告が必要です。
特定口座(源泉あり)は通常申告不要ですが、そのままでは外国税額控除が使えません。米国で引かれた税は戻ってこないため、外国税額控除を受けたい人は必ず確定申告を行ってください。
コメント