NISAが「やってて当然」みたいな空気になってきた。
まず前提条件を揃える。
NISAの対象年齢に合わせて、18歳以上で見る。
総務省の人口推計(2024年10月1日現在)によると、18歳以上人口は1億673万人。
一方、金融庁公表のNISA口座数は2,559万口座(2024年12月末)。
この2つを同じ土俵に乗せると、
普及率は約24.0%(2,559万 ÷ 1億673万)になる。
4人に1人だ。
もう「一部の投資好きの話」じゃない。
しかも「現役世代はさらに高い」で終わらせない。裏を取る。
2024年12月末時点でのNISA口座保有率は、
- 30代:33.8%
- 40代:30.1%
- 50代:27.1%
この数字を見ると分かる。
NISAはすでに生活設計ど真ん中の世代の制度になっている。
ここまで普及すると、何が起きるか。
「制度を理解して投資する人」より、「空気で投資する人」が増える。
で、だいたい同じ結論に流れ着く。
「非課税だから得」
「高配当だから安心」
悪いが、その思考停止は認知バイアスの直撃コース。

認知バイアスは、投資判断を静かに壊す
認知バイアスってのは、判断の癖だ。
本人は冷静なつもりでも、都合のいい解釈を無意識に選んでしまう。
投資では、これが致命傷になる。
代表例が、ダニエル・カーネマンのプロスペクト理論で知られる損失回避だ。
人は、同額なら「得の喜び」より「損の痛み」を強く感じる。
研究では、損失の心理的インパクトは利益の推定(中央値)で約2.25倍とされる。
断言していい。人間は、損を異常に嫌う。
これがNISAと高配当投資に絡むと、行動はこう歪む。
損失回避
含み損の高配当ETFを、
「でも分配金は出てるし…」と自分に言い聞かせて売れなくなる。
価格下落という本体の損から目を逸らすための言い訳だ。
フレーミング効果
「非課税で年間○万円もらえる」という表現だけが脳に残り、
価格が下がるリスクや将来の減配が視界から消える。
マネー錯覚
「年間10万円の配当」という数字に満足して、
評価額がそれ以上に減っている現実を深く考えなくなる。
メンタルアカウンティング
配当は収入、価格下落は別枠。
結果、資産全体で減っていても「配当あるからOK」という結論に落ちる。
NISAと高配当投資は、
人間の弱点を刺激する設計になっている。これは偶然じゃない。
NISAと「非課税=お得」という危険な短絡
NISAでは、株や投資信託の運用益が非課税になる。
ここまでは事実だ。
だが、その次を理解しないまま使うと、普通に痛い目を見る。
NISAの損失は、税務上「存在しなかったこと」になる
制度上の事実として押さえておけ。
- NISA口座の損失は、他口座と損益通算できない
- 損失の繰越控除も不可
つまり、NISAでの損は税務上「無かった扱い」だ。
失敗しても、
- 他の利益と相殺できない
- 税金で取り返せない
- 勉強代としてすら回収できない
非課税の裏で、逃げ道は全部塞がっている。
税率は20.315%。数字を誤魔化すな
よく「約20%」で流されるが、正確には
20.315%(所得税15.315%+住民税5%)だ。
NISAで得する感覚は、
「この20.315%を払わずに済んだ」という話にすぎない。
そしてそれは、利益が出た場合限定だ。
相場は、非課税かどうかなんて気にしちゃくれない。
高配当ETFと利回りマジックの正体
高配当ETFが人気なのは分かる。
数字で成果が見えるからだ。
ただし、その数字は簡単に嘘をつく。
利回りは「分配 ÷ 価格」というだけの話
分配利回りは、
利回り=分配金 ÷ 価格
この算数でしかない。
たとえば、
- 年間分配:100円
- 価格:2,000円 → 利回り5%
これが、価格下落で1,500円になれば、
- 利回りは 6.7% に跳ね上がる
何も良くなってない。
むしろ悪化しているのに、数字だけが派手になる。
これが「高利回りに見える」正体だ。
分配実績が荒れているETFは、それ自体が警告
年ごとに分配金が大きく増減するETFは、
- 業績や市況への依存度が高い
- 安定運用ができていない
配当は、企業や市場が苦しくなれば真っ先に削られる。
「今いくら出てるか」より、「どういう構造で出ているか」を見ろ。
業種集中は、逆風でまとめて沈む
高配当ETFは、金融・エネルギー・不動産などに偏りやすい。
好調なときはいいが、逆風では価格と分配が同時にやられる。
「利回りが高いから安心」は、完全に逆だ。
分配金だけを見ている限り、判断は必ずズレる
「非課税で○万円の配当」
この言葉は、気持ちいい。
だが、投資の成果はトータルリターンでしか測れない。
- 価格が下がっていないか
- 将来の分配原資は削れていないか
分配金は結果であって、保証じゃない。
今すぐ切り替えるべき判断軸
最後に、変えるべき基準をはっきり書く。
- 「非課税かどうか」ではなく、トータルリターンで見る
- 「利回りの高さ」ではなく、継続性と価格下落耐性で見る
- 「NISA枠を埋める」ではなく、資産配分の一部として使う
NISAは優秀な制度だ。
だが、考える代わりにはならない。
非課税という言葉に判断を預けた瞬間、
それはもう投資じゃない。



