景気局面×強いセクター――「決め打ち」をやめて「仮説」に変える

教科書に載っている「景気サイクル×セクター(業種・分野)」の対応表を、そのまま使うと何が起きるか。その構造を理解した上で、自分のポートフォリオに当てはめるための「仮説の立て方」まで整理する。

景気局面とセクターの対応は「傾向」であって「法則」ではない。使い方は「このセクターを買う」ではなく「このセクターが強い局面なら、今の保有比率は合理的か」と問う材料にとどめる。

教科書的な対応表を先に確認する

「景気サイクルとセクターの関係を知りたい」という人は多い。どの局面で何を持てばいいか、一覧で見たいという気持ちはわかる。まずその地図を渡す。

景気サイクルは大まかに「回復・拡大・減速・後退」の4局面に分けられることが多い。それぞれで相対的に強いとされるセクターは以下のように整理される。

景気局面相対的に強いとされるセクター理由(構造)
回復期一般消費財、金融、不動産金利が低く、消費と信用が戻り始める
拡大期情報技術、資本財、エネルギー企業の設備投資・生産が増える
減速期ヘルスケア、生活必需品景気感応度が低く、需要が安定している
後退期公益、通信、生活必需品配当が安定し、株価の下落耐性が高い

この表は米国の過去データをもとにした研究(特にフィデリティ・インベストメンツが公表しているセクターローテーション・モデルが引用されることが多い)に基づいている。東証上場ETFでセクターに投資する場合、国内では「NEXT FUNDS」「iシェアーズ」などのシリーズにセクター別ETFが揃っている。コスト面や流動性において国内ETFで十分カバーできるため、ここでは国内商品を前提に話を進める。

この表の「使い道」は後述する。まずは「なぜそのまま使えないか」を先に押さえておく。

なぜ「決め打ち」が機能しないのか

「回復期だからITを買う」で動いた人が、なぜうまくいかないことが多いのか。疑問に思っている人は少なくない。

理由は主に3つある。

1. 局面の認定はいつも後付けになる 「今が回復期か拡大期か」はリアルタイムでは判断できない。GDPや雇用統計の数値が出るのは1〜2か月遅れ、しかも改定される。市場はそれより先に動く。つまり「今がどの局面か確定した」と思ったとき、セクターはすでに次の局面の価格を織り込んでいることが多い。

2. 同じ名前の局面でも背景が違う 2020年のコロナ後回復と、2023年の利上げ局面はどちらも「景気拡大」という言葉が使えた時期を含む。だがITセクターの値動きは真逆だった。金利という変数が加わることで、教科書の対応が機能しなくなる。

3. セクターは複数の要因に同時に反応する エネルギーセクターは景気よりも地政学と供給制約に反応することが多い。ヘルスケアは規制リスクで動く。「景気局面」は数ある変数の一つにすぎない。

「では対応表は意味がないのか」というと、そうではない。意味があるのは「特定セクターを買う根拠」としてではなく、「保有しているセクター比率の合理性を問い直す材料」としてだ。その使い方を次の見出しで整理する。

「仮説の置き方」とは何か

「仮説を立てる」という言葉は聞こえがいいが、具体的に何をするのかがわかりにくい。ここを明確にする。

仮説の置き方は3ステップで考えられる。

ステップ1:今の自分の景気観を言語化する 「減速に向かっている気がする」という感覚をそのまま使うのではなく、何を根拠にそう思っているかを一言で言えるようにする。たとえば「PMI(製造業購買担当者景気指数)が2か月連続で50を下回った」「FRBの利上げが止まった」などの観察事実を根拠にする。感覚でなく、観察に基づく景気観にする。

ステップ2:その景気観と現在の保有比率を比較する 自分のNISA口座が全世界株(世界中の株式を1本で持てるETF、MSCIオール・カントリー等の指数に連動)一本であれば、セクター比率は自動的に時価総額加重(会社の規模が大きいほど多く持つ仕組み)になっている。IT比率は高く、公益・生活必需品は低め。「減速局面の仮説」と整合しているかを問う。

ステップ3:ズレがあれば「どの程度調整するか」を決める 全体の何割かをヘルスケアETFや生活必需品ETFに移すのか、何もしないのか。「仮説が外れた場合どうするか」も先に決めておく。たとえば「3か月後に景気指標が改善していたら元に戻す」という出口条件を置く。

この3ステップは「正しい答えを出す」ためのものではなく、「判断の根拠を自分で持てるようにする」ためのもの。判断が外れても、根拠が明確なら次の学習につながる。根拠なしに動いた場合、何が間違っていたかを振り返れない。

仮説を「小さく」置く理由

「仮説が正しければ全額そのセクターに集中したほうが効率的では」と思う人もいる。その発想の危うさを整理する。

セクターローテーション戦略は、プロの機関投資家でも継続的に市場平均を上回ることが難しい分野だ。モーニングスターなどのデータでは、アクティブ型のセクターローテーション・ファンドの多くが5〜10年スパンでインデックスに負けている。理由は前述の「局面認定の遅れ」と「取引コスト」の蓄積にある。

個人投資家がこれをやる場合、さらに不利な条件が加わる。情報の速度、リバランス(配分比率を元の設定に戻す作業)のタイミング、感情的な判断バイアスだ。

では仮説を置く意味は何か。「コアをインデックスで持ちながら、サテライト部分でセクター観を少し反映させる」という使い方が現実的だ。たとえばポートフォリオ全体の10〜20%をサテライトとして、景気観に基づくセクターETFに割り当てる。この比率なら「仮説が外れても壊滅しない」「仮説が当たれば全体にプラスに効く」という構造を作れる。

コアとサテライトの比率は人によって異なる。「毎月じっくり調べる時間がある」なら20%まで広げてもいい。「あまり時間を取れない」なら5〜10%にとどめて、大部分を全世界株に任せる方が続く。時間コストとの兼ね合いで決める。

よくある誤解

「景気後退に入ったから防衛的セクターに移した」という判断を、「正しいセクターローテーションを実践した」と捉えてしまうことがある。なぜそうなるかというと、対応表を見ると「後退期→公益・生活必需品」と書いてあり、行動と教科書が一致しているように見えるからだ。

実際には、景気後退の「入り口」でその判断が正しくても、どのくらいの深さの後退か、どの程度の期間続くか、金利がどう動くかによって、防衛的セクターの実際の値動きは大きく変わる。教科書と行動が一致していることは、判断の正しさの保証にはならない。

では何をするか。判断の根拠をセクターの名前ではなく「観察事実と仮説の条件」に置く。「PMIが〇〇を下回った状態が続くなら」「FRBが利下げに転じたら」という条件付きの仮説にしておくと、条件が変わったときに素直に見直せる。名前で決めると修正が遅れる。

まとめ

景気局面とセクターの対応は「傾向の地図」として使う分には有効だが、「これを買う」という行動の根拠には弱い。仮説を観察事実に基づいて言語化し、保有比率との整合性を問う材料として使うのが現実的な使い方だ。コアはインデックスで持ちながら、サテライト部分に景気観を小さく反映させる構造が、個人投資家には続けやすい。

次は「セクターETFを選ぶときのコストと流動性の見方――東証上場ETFで何が選べるか」を参照するとより具体的な判断軸が整う。

景気サイクル×セクター投資:実践的活用ガイド
投資の羅針盤

「景気サイクル×セクター」の
本当の使い方

教科書の「対応表」をそのまま使うと失敗する。
重要なのは「正解」を探すことではなく、自分のポートフォリオに対する「仮説」を持つことです。
このガイドでは、知識を実践に変えるための思考プロセスを整理します。

学習を始める ▼

1. 教科書的な「景気サイクル」

まずは基本の地図を確認しましょう。景気は「回復・拡大・減速・後退」の4局面を循環するとされ、 それぞれの局面で「相対的に強い」とされるセクターがあります。
※下のグラフの各エリアをクリックして詳細を確認してください。

👆

左の円グラフのエリアをクリック(タップ)して、
各局面の詳細を表示してください。

2. なぜ「決め打ち」は機能しないのか?

「今は回復期だからITを買う」──そう動いた投資家の多くがうまくいかない理由には、構造的な欠陥があります。 教科書を過信することの3つのリスクを理解しましょう。

🐢

1. 局面認定は「後付け」

GDPや雇用統計が出るのは1〜2ヶ月遅れ。 「今は回復期だ」と確信できた頃には、市場はすでに次の局面を織り込んで価格が動いています。

⚠️ リアルタイム判断は不可能に近い
🔀

2. 背景の違い

同じ「拡大期」でも、2020年のコロナ後(緩和)と2023年(利上げ)ではITセクターの動きは真逆でした。 「金利」という変数が、教科書の法則を無効化します。

⚠️ 名前が同じでも中身は別物
🧩

3. 複合要因への反応

エネルギーは地政学、ヘルスケアは規制リスク。「景気」は数ある変数の一つに過ぎません。 単一の要因だけでセクター全体が動くわけではありません。

⚠️ 景気以外のノイズが多い
Practical Application

3. 「仮説」の立て方:3ステップ

対応表は「何を買うか」を決めるためではなく、「自分の保有比率の合理性を問う」ために使います。 以下のステップで、思考プロセスを体験してみましょう。

Step 1:今の景気観を「観察事実」で言語化する

なんとなくの感覚ではなく、指標に基づいた根拠を持ちます。以下から現在の状況に近いものを選んでみてください。

4. 「コア・サテライト」で仮説を小さく置く

プロでもセクターローテーションで勝ち続けるのは困難です。 個人投資家の最適解は、「仮説が正しければ全額突っ込む」ではなく、「コア(インデックス)を守りながら、サテライトで少しだけ反映させる」ことです。

0% (完全インデックス) 20% (推奨上限) 40% (リスク高)
  • コア (80-90%): 全世界株など。市場平均を確保。
  • サテライト (10-20%): 景気観に基づいたセクターETF。

まとめ

景気局面とセクターの対応表は「傾向の地図」です。
これを「保有比率の合理性を問い直す材料」として使い、コア・サテライト戦略の中で小さく仮説を検証していくことが、 長く市場に居続けるための秘訣です。


Based on article summary: Economic Cycles x Sector Investment Strategy.

タイトルとURLをコピーしました