暴落が来たとき、売るかどうかを「そのとき」に決めようとすると大抵うまくいかない。事前に自分のルールを文字として残しておくだけで、その判断の質はかなり変わる。この記事を読むと、暴落シナリオを先に想定して「売らないための運用ルール」を自分で設計できるようになる。
暴落に耐えられる人と売ってしまう人の違いは、知識量より「事前に自分のルールを持っているかどうか」だ。下落が始まってから考えるのでは遅い。
暴落で売ってしまうのは、意志が弱いからではない
暴落のたびに「また売ってしまった」という自己嫌悪を抱える人は多い。だが、これを「感情のコントロールができていない」と片づけると話が終わってしまう。
売ってしまう根本原因は、下落中に「このまま持ち続けていいのかどうか」の判断を、そのとき初めて行おうとするところにある。情報もノイズも最大化しているタイミングで、リスク(想定よりブレる可能性)の評価をゼロから始めるのは、条件として不利すぎる。
株式市場では、歴史的な大型下落が繰り返されてきた。リーマンショック時の世界株下落は50%超、コロナショックでは約1ヶ月で30%超の下落が起きた。いずれも回復しているが、その「回復の前」にいるとき、回復を信じることはデータ的には正しくても、体感としては難しい。
つまり問題の構造は単純で、「下落中に意思決定するから売る」のだ。対策もそこから逆算できる。下落中に意思決定しなくて済む状態、つまり「このシナリオが来たらこう動く」をあらかじめ書き残しておくこと、それが運用ルールの役割だ。
ルールは精度より存在が大事。粗削りでも、事前に書かれたものには「今の自分の判断を脇に置かせる力」がある。
暴落シナリオを3段階に分けて想定する
ルールを作るとき、「暴落が来たら動じない」という抽象的な決意を書いても機能しない。有効なのは「どの程度の下落で自分はどう感じるか」を、数字を使って事前に想定しておくことだ。
参考として、ドローダウン(ピークからの下落率)の目安を3段階に分けると整理しやすい。
| 段階 | ドローダウン目安 | 過去の近い事例 |
|---|---|---|
| 軽微 | −10〜−20% | 2018年末の米株下落 |
| 中程度 | −20〜−40% | コロナショック(2020年) |
| 深刻 | −40〜−60% | リーマンショック(2008〜09年) |
表は目安に過ぎないが、「−20%まで」と「−50%まで」では心理的な重さがまるで違う。自分のポートフォリオが半分になった状態を、一度だけ具体的に想像してほしい。保有額が500万円なら250万円になる、という数字で考えると実感が出てくる。
各段階で「自分はこうする」という行動を事前に決める。例えば:
- 軽微(−10〜−20%):何もしない。予定通り積立継続。
- 中程度(−20〜−40%):追加資金があれば積立額を一時増額。売却は検討しない。
- 深刻(−40〜−60%):売却の条件を改めて確認する。ただし「生活費に困っていない」場合は原則継続。
この「ただし書き」部分が重要で、売却を許容する条件を厳格に絞っておかないと、深刻な下落時に「今がその条件だ」と自分に言い訳しやすくなる。
「売っていい条件」を先に書いておく
運用ルールは「売らない宣言」ではなく、「この条件を満たしたときは売る」を明確にしておくものでもある。売却を禁止にするとかえって判断が歪む。
売却を許容する条件として、事前に設定しておくとよいのは主に次の3種類だ。
① 生活資金が枯渇するとき 投資に使っているお金が「なくても困らない余剰資金」でなくなった場合。例:失職、急病、予期せぬ大きな支出が発生し、生活費の確保が難しくなった。
② 運用目標が達成されたとき 「60歳時点で○○万円を確保する」という目標に対し、相場が上昇してその水準に達した場合に一部売却して確定させる。
③ ポートフォリオの設計が根本から変わるとき リバランス(配分比率を元の設定に戻す作業)の範囲を超えて、保有ETFへの信頼が揺らいだ場合。ただし「下落が怖い」だけでは該当しない。運用コスト構造の変化、流動性の著しい低下など、ファンダメンタルズに変化があるときに限る。
この3条件以外は「売らない」と事前に書いておく。暴落中は感情が「今がその条件だ」と言い始めるが、それが本当にその条件かどうかを冷静に照合できるのが、事前ルールの強みだ。
40代でNISAを活用している場合、非課税枠を一度使った投資信託やETFを売却すると、その枠は年間上限の制約のもとでしか再利用できない。売却の判断はコストと機会損失の両面で影響が出るため、なおさら「売る条件」を絞って設定しておく価値がある。
ルールを「1枚の紙」に書いて保存する
設計したルールは、頭の中だけに置かない。物理的かデジタルかは問わないが、「暴落の最中に5分で見返せる形」で残しておく必要がある。
記録しておくべき項目の構成例:
- 運用目的と期間:「65歳までに○○万円を確保する。現時点で残り○年。」
- 許容できるドローダウン:「−40%までは追加売却なし。−50%超でも生活費が確保できていれば継続。」
- 売却を許容する3条件:上記①②③を自分の言葉で書く。
- 保有ETFの継続根拠:「なぜこのETFを持っているか」を1〜2行で書く。全世界株(世界中の株式を1本で持てるETF、MSCIオール・カントリー等の指数に連動するもの)を保有している場合は、「地域分散(複数に分けてリスクを薄める)の観点から選択している」など、選んだ理由を書いておく。
- このルールを変更できる件:「暴落中は変更しない。相場が落ち着いた時期に限り、半年に一度だけ見直す。」
5番目が見落とされがちだが、ルール自体を暴落中に書き換え始めると意味をなさなくなる。「ルールを変えられるタイミング」を事前に制限しておくことで、「このルールは今の自分には合わない気がする」という気持ちに流されにくくなる。
保存場所は、普段使っているメモアプリやスプレッドシートで構わない。大事なのは「暴落ニュースを見た直後に、5分以内に見返せる場所にあること」だ。
よくある誤解
「ルールを作るより、そもそも暴落しないポートフォリオにすれば解決では?」という考え方がある。確かに債券やキャッシュの比率を高めれば下落幅は小さくなる。そう思いやすいのは、「暴落を避けることと、暴落に耐えることを同じ対策で解決しようとするから」だ。
実際には、株式比率を下げるほどリスクが減るのは本当だが、長期でのリターンも下がる。40代で20〜25年の運用期間があるとしたら、過度に守りに入ったポートフォリオは「資産を守る」よりも「成長機会を手放す」方向に働きやすい。
では何をするか。ポートフォリオの設計と運用ルールの作成は、別の問題として並行して扱う。自分がどこまでの下落に耐えられるかを確認してから株式比率を決める、という順序が現実的だ。耐えられないレベルのリスクを取っているなら比率を見直す。一方、比率が適切でも「売ってしまう」なら、それはルール設計の問題だ。
まとめ
暴落に耐えられるかどうかは、下落が始まってから決まるのではなく、事前に設計したルールがあるかどうかで決まる。「売っていい条件」を先に絞り、3段階のドローダウンシナリオを想定し、それを5分で見返せる形で保存しておく。ルールの精度より、「存在すること」が先だ。次は「ポートフォリオのリバランスはいつ・どう行うか」についても合わせて確認しておくと、ルール設計の枠組みが完成に近づく。
暴落時に「売らない」ための
運用ルール設計
暴落に耐えられる人と売ってしまう人の違いは、知識量ではなく「事前にルールを持っているか」です。
パニックになる前に、あなたの「防衛線」をここで設計しましょう。
なぜ、下落中に売ってしまうのか?
意志の弱さではありません。構造的な問題です。
× 失敗するパターン
「暴落が起きたら、その時に状況を見て判断しよう」と考えている。
○ 成功するパターン
「このシナリオが来たらこう動く」と事前に決めてある。
過去の暴落と回復(イメージ)
リーマンショック(-50%超)やコロナショック(-30%超)も、長期では回復しています。
3段階の暴落シミュレーター
自分の資産が半分になる恐怖を、数字で具体的に想像してください。
推奨される行動
現在は平常です。ルールを確認し、準備を整えてください。
心理状態の目安: 安定しています。
過去の事例: 特になし
「売っていい条件」を厳格化する
以下の3条件以外は「売らない」と事前に決めておくことが重要です。
1. 生活資金の枯渇
失職、急病、予期せぬ大きな支出などで、余剰資金の前提が崩れた場合。
2. 運用目標の達成
「60歳で2000万円」などの目標金額に達した場合。
3. 設計の根本的変化
コスト構造の悪化、ETFの償還リスクなど、商品自体の欠陥が生じた場合。
ケーススタディ:これは売っていい?
あなたの「暴落対応ルール」を作成
このルールは、暴落ニュースを見た直後、5分以内に見返せる場所に保存してください。
③ 下落時のコミットメント (自動入力)
- -20%まで(軽微):何もしない。積立継続。
- -40%まで(中程度):追加資金があれば増額。売らない。
- -60%まで(深刻):生活費が確保できていれば継続。
私の投資運用ルール
目的
保有根拠
暴落時の対応
売却を許容する唯一の条件
- 生活資金の枯渇(緊急事態)
- 運用目標金額の達成
- 投資対象のファンダメンタルズ崩壊
次回見直し予定: (半年に一度のみ)

