売買や配分変更のたびに「なぜそう決めたか」を3つの項目で記録する習慣を持つと、次の判断が感情ではなく過去の自分の論理から始められる。日誌の書き方と継続できる形式を整理した。
判断日誌に書くのは「感情」ではなく「根拠・反証・次に動く条件」の3点だけ。この3項目に絞ることで、記録が判断の検証ツールになる。
なぜ「感情の記録」では役に立たないのか
投資の記録をつけようとしたとき、多くの人が最初に書くのは「相場が下がって不安だった」「思ったより上がって少し安心した」といった心理状態だ。気持ちを吐き出すこと自体に意味はあるが、それをあとから読み返しても次の判断には使えない。「あのとき不安だった」という事実は、今の判断を変える情報を何も持っていない。
では何が役に立つか。自分が「なぜその判断をしたか」の構造を書いておくことだ。「〇〇という根拠でAという行動をとった。ただし△△という反証も存在した。次に再評価する条件は□□」という形式なら、数ヶ月後に読み返したとき、その判断が正しかったかどうかを検証できる。
感情の記録と判断の記録は似ているようで、機能がまったく違う。感情の記録は「そのときの自分」を残す。判断の記録は「そのときの論理」を残す。投資の改善に使えるのは後者だ。
具体的にどう切り替えるか。記録を始める前に「この記録を3ヶ月後の自分が読んで、判断を検証できるか」と一度問いかけてみる。感情的な文章はこの問いに答えられない。論理の構造が書かれた記録なら答えられる。この問いをフィルターとして使うだけで、書く内容が自然と変わる。
3項目だけ書く:根拠・反証・次の条件
判断日誌を継続できない理由の大半は「書くことが多すぎる」か「何を書けばいいかわからない」のどちらかだ。これを解決するために、記録する項目を3つに固定する。
根拠:その判断をした理由を1〜2文で書く。「〇〇ETFの信託報酬(ETFを保有している間かかる年間コスト)が引き下げられたため、同カテゴリの他銘柄から乗り換えた」「分散(複数に分けてリスクを薄める)の観点から、特定セクター(業種・分野)への偏りを減らした」といった具体的な根拠。曖昧なものは書かない。「なんとなく良さそうだった」は根拠ではなく感情なので、このフィールドには書けない。
反証:根拠に反する事実や条件を1文で書く。「ただし乗り換えコストを考えると短期では不利」「ただし今のポートフォリオではこのセクターの割合がまだ低い」など。反証を書く理由は、あとで「なぜそれでも動いたか」を確認できるようにするためだ。反証を書けないときは、判断が十分に検討されていない可能性がある。
次の条件:次にこの判断を見直す具体的な条件を書く。「〇〇の指数が△%以上下落したら再評価」「半年後にリバランス(配分比率を元の設定に戻す作業)の対象に入れる」など。条件は数値か期日で書く。「状況が変わったら」「必要と感じたら」は条件ではない。次のアクションが具体的に見えて初めて、記録が活きる。
この3項目を埋めるのに慣れれば5分以内で書けるようになる。逆に5分以上かかるときは、判断の根拠がまだ曖昧なサインとして使える。
テンプレートと実例
テンプレートを毎回ゼロから作ると習慣が続かない。以下の形式をメモアプリ・スプレッドシート・ノートのどれかに固定して使い回す。
日付:
判断の内容(何をどうしたか):
根拠:
反証:
次の条件:
実例を一つ。
日付:2025年3月15日
判断の内容:全世界株(世界中の株式を1本で持てるETF)の積み立て額を増額
根拠:ドローダウン(ピークからの下落率)が15%に達し、あらかじめ設定していた
増額条件を満たした
反証:ボラティリティ(値動きの大きさ)が高い局面での増額は
さらなる下落余地を含む
次の条件:ドローダウンが30%に達した場合、再度増額を検討。
または半年後の定期見直し時に通常額に戻すかを判断
ポイントは「判断の内容」に主観を入れないことだ。「良さそうだったので買い増した」ではなく「あらかじめ設定していた増額条件を満たした」と書く。この差は小さいようで、読み返したときの情報量がまったく違う。
形式はアナログでもデジタルでも機能する。ノートに手書きする人、スプレッドシートで管理する人、いずれでも3項目が埋まっていれば記録としての価値は変わらない。自分が続けられる媒体を選ぶことが最優先だ。
検証のタイミングと使い方
書くだけでは半分の価値しかない。定期的に読み返すことで、記録が判断の改善に繋がる。
検証のタイミングとして現実的なのは、3ヶ月ごとのリバランス見直し時だ。そのタイミングで過去3ヶ月分の日誌を見返し、「次の条件」に書いた内容が発動したかどうかを確認する。発動していれば、条件通りに動いたかを評価する。発動していなければ、条件の設定が適切だったかを問い直す。
検証で見るべきポイントは2つ。一つは「根拠が今も有効か」。市場の状況が変わり、当初の根拠が意味をなさなくなっていることはある。そのとき、判断を変えることへの心理的ハードルが下がる。なぜなら「根拠が変わったから判断を変えた」という論理の流れが明確になるからだ。
もう一つは「反証が現実になったか」。反証として書いていたリスクが実際に発現したなら、次回の判断では同様のリスクをより重く見積もる根拠になる。逆に反証が杞憂に終わったなら、それも記録する。「想定していたリスクは発現しなかった」という事実はデータとして使える。
検証の頻度が高すぎると、短期のノイズに反応して判断が揺れやすくなる。3ヶ月ごとを基本とし、市場に大きな動きがあった場合にのみ臨時で見返す、という使い方が一つの目安になる。
書き続けるための設計
判断日誌が続かない最大の理由は「書くべきことが多すぎると思い込む」ことだ。3項目に固定したのはこのためだが、それ以外にも設計として決めておくことがある。
まず、書くタイミングを「判断の直後」に固定する。翌日以降に書こうとすると、記憶が薄れ、後付けの合理化が混入する。判断した日の夜に書くというルールを守るだけで、記録の質が変わる。
次に、書かない判断を決める。毎月の定期積み立ては判断ではないので記録しない。積み立て額・銘柄・配分に変更がない限りはログ不要とする。これにより、本当に判断が発生したときだけ書く仕組みになる。記録の数が増えすぎると、読み返す気が失せる。
最後に、「書けなかった判断」に気づく使い方がある。あとで振り返ったとき、記録のない売買や変更があれば、それは根拠のない衝動的な判断だった可能性が高い。記録がないこと自体が情報になる。次回は「これは記録できる判断か」を動く前に問いかける習慣につながる。
よくある誤解
「日誌をつけると判断が遅くなる」という懸念をもつ人がいる。日誌を書く作業が判断の障壁になるというイメージだ。
これは設計の問題であって、日誌そのものの問題ではない。事後に書く形式であれば、判断のスピードには一切影響しない。判断の前に「根拠・反証・条件を言語化してから動く」プロセスを挟むと確かに時間がかかるが、それは判断の質を上げるためのコストであって、日誌の負担ではない。
また、「きれいに書けない記録は意味がない」と感じて手が止まる人もいる。記録の体裁は関係ない。3項目が箇条書きで埋まっていれば十分だ。文章として整っていなくても、あとで読んで判断の論理が復元できればそれで機能する。
では何をするか。「書く形式を完璧にしようとしない」ことを最初から決める。走り書きでいいと許可を与えてから始めると、継続できる確率が上がる。
まとめ
判断日誌は感情の記録ではなく、根拠・反証・次の条件の3項目を書く構造の記録だ。この3項目が埋まっていれば、数ヶ月後に読み返したとき判断を検証できる。テンプレートを固定し、判断の直後に書き、3ヶ月ごとに見返す設計を最初に決めてしまうことが継続の鍵になる。
判断日誌の作り方
「感情」ではなく「論理の構造」を残す。
未来の自分のために、根拠・反証・次の条件だけを記録する技術。
なぜ「感情」の記録は無意味なのか
投資や重要な決断の際、多くの人は「不安だった」「安心した」という感情を記録しがちです。しかし、感情の記録は時間の経過とともに価値を失います。一方で、「論理(なぜそうしたか)」の記録は、検証のタイミングで価値が最大化します。
記録の価値推移モデル
※概念図:時間の経過に伴う情報の有用性
✕ 感情の記録
「相場が下がって怖かった」
→ 3ヶ月後、この情報は次の判断に役立たない。
○ 判断(論理)の記録
「割安水準(PER 12倍)に達したため購入」
→ 3ヶ月後、「本当に割安だったか?」を検証できる。
書くのは3項目だけ
継続のコツは「5分で書けること」。以下の3点に絞ることで、記録が検証ツールに変わります。 各カードをクリックして詳細を確認してください。
根拠 (Rationale)
その判断をした理由を具体的な事実・データで書く。
- 「なんとなく」は禁止
- 数値や制度変更など客観的事実を書く
- 例:「信託報酬が引き下げられたため」
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反証 (Counter)
あえてその判断に反対する理由やリスクを書く。
- 死角をなくすための項目
- 「なぜリスクがあるのに動いたか」を残す
- 例:「ただし短期的なコスト負けの可能性あり」
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次の条件 (Next)
次に判断を見直す具体的なトリガー(数値・期日)。
- 「状況が変わったら」はNG
- 検証の答え合わせに使う
- 例:「ドローダウンが30%に達したら」
詳細を見る ▼
思考の変換トレーニング
多くの人は「感情的な文章」を書いてしまいがちです。以下のボタンを押して、感情的な日記がどのように「論理的な日誌」に変換されるか見てみましょう。
「株価がすごく下がって不安になったから、これ以上損しないように売った。少し安心した。」
根拠:損切りライン(-10%)に抵触したためルール通り売却。
反証:短期的なパニック売りの可能性あり。反発のリスク。
次:株価が200日移動平均線を超えたら再エントリー検討。
変換ボタンを押してください
検証のサイクル
書くだけでは不十分です。3ヶ月ごとの「答え合わせ」が投資スキルを向上させます。
Step 1: 判断・記録
売買や設定変更の直後に「根拠・反証・条件」の3点を5分で記録する。
Step 2: 寝かせる
市場のノイズに反応せず、設定した条件や期間が来るまで放置する。
Step 3: 検証(リバランス)
3ヶ月後、日誌を読み返す。「次の条件」は発動したか?「根拠」はまだ有効か?を問う。
テンプレート作成練習
Output Preview
ここに生成された日誌が表示されます…

