銘柄数を増やしたのに、相場が崩れると全部一緒に下がった——そういう経験をした人は少なくない。この記事を読むと、なぜそうなるのかの構造が理解でき、自分のポートフォリオが本当に分散(複数に分けてリスクを薄めること)できているかを確認する視点が持てる。
銘柄数ではなく「相関の低さ」が分散の本体。相関が高い組み合わせをいくら増やしても、ドローダウン(ピークからの下落率)の深さも回復にかかる時間も、ほとんど変わらない。
「10銘柄持っている」は分散の証明にならない
ETFをある程度調べてきた人ほど、「複数持っている=分散できている」という等式が頭に定着しやすい。銘柄数を増やすことで何かリスク対策をしている感覚が生まれるのは自然だが、その感覚が正確かどうかは別の話だ。
分散が実際に機能するのは、「一方が下がるときにもう一方が下がりにくい、あるいは上がる」という関係が成立しているときだけだ。これを相関と呼ぶ。相関係数は−1から+1の間で動き、+1に近いほど同じ方向に動きやすく、0に近いほど無関係、−1に近いほど逆に動きやすい。
たとえば、国内ETFで日経平均連動・TOPIX連動・JPX日経400連動を3本並べた場合、それぞれ違う指数に連動しているように見えて、組み入れ企業は大きく重なっている。相関係数は0.95前後になることも珍しくない。これは「ほぼ同じ動き」と言い切ってよい水準で、3本持っていても1本持っているのと下落時の挙動はほぼ変わらない。
判断の補助として整理すると、同一国・同一アセットクラスの中で銘柄を増やしているだけなら分散効果はほぼゼロに近い。一方、株式と債券、あるいは国内株と新興国株のように値動きの源泉が異なるものを組み合わせている場合は、相関が下がりやすく分散が機能しやすい。まず自分のポートフォリオの中身が「何の相関を持つか」を整理するところから始めると、銘柄数の多さという錯覚に気づきやすくなる。
相関は平常時に低くても、危機時に跳ね上がる
「株式と債券は逆相関」という知識を持っている人は多い。これは長期の平均として概ね正しいが、危機局面では別の動きをすることがある。
2020年3月のコロナショック初動では、米国株・新興国株・ゴールド・REITがほぼ同時に急落した。投資家が現金化を急ぐ「質への逃避」が極端に進んだとき、普段は相関が低いアセット同士でも連動して下落する。この現象を「相関の収束」と呼ぶこともある。平常時に0.2程度だった相関が、危機の数週間だけ0.7〜0.8まで上昇するケースは歴史的に繰り返されている。
これが何を意味するかというと、分散はドローダウンをゼロにする道具ではなく、ドローダウンの深さと回復期間を「構造的に抑える」道具だという点だ。どんな組み合わせでも、歴史的な危機局面では一定の下落は免れない。それを前提に設計しておく必要がある。
具体的な対処としては、相関が収束しやすい局面を想定した上で「最悪シナリオで何%落ちても運用を続けられるか」を先に決めておく方法がある。たとえばポートフォリオ全体で30%のドローダウンが来たとき、売らずにいられる精神的・資金的余裕があるかどうか。それが難しいなら、現金や国内債券ETFの比率を上げてドローダウン自体を浅くする設計が現実的だ。
ドローダウンの深さより「回復期間」が40代には重たい
ドローダウンが議論されるとき、「何%下がったか」に注目が集まりやすい。ただ40代の資産形成という文脈では、「何年で戻ったか」の方が実際の判断に効いてくる。
歴史的な主要指数のドローダウンと回復期間を並べると、リーマンショック時のS&P500は約56%下落し、元の水準に戻るまで約5年かかった(配当込みで約4年)。TOPIX(東証株価指数)は2000年のITバブル崩壊後、ピーク水準への完全回復に20年以上かかっている。これは指数の話で、個別の偏ったポートフォリオならさらに長くなりうる。
40代で運用を始めた場合、リタイアまでの期間は概ね20〜25年ある。その間に1〜2回の大きな下落局面が来ることは統計的にも織り込んでおく方が自然だ。ここで問題になるのが、下落のタイミングだ。運用開始直後に大きなドローダウンが来ると、回復するまでの間に積み立てた資金が低い基準価額で積み上がり、回復後の資産水準が期待より高くなる「時間の味方」も起きうる。一方、引退直前に大きなドローダウンが来た場合は、回復を待つ時間的余裕がない。
判断の補助として言えば、引退まで15年以上あるなら深いドローダウンへの耐性よりも「回復力のある指数かどうか」を重視する選択肢がある。引退まで10年以内に入ってきたなら、最大ドローダウンの深さとその回復期間を具体的に調べた上で、債券や現金の比率を意識的に厚くする設計が判断の軸になる。
同時に落ちやすい組み合わせの具体例
「相関が高い組み合わせ」をより具体的に把握しておくと、自分のポートフォリオを見直しやすくなる。以下は国内ETFで構成したときに相関が高くなりやすいパターンの例だ。
| 組み合わせ | 相関が高い理由 | 実質的な分散効果 |
|---|---|---|
| 日経225連動 + TOPIX連動 | 銘柄の大部分が重複 | ほぼなし |
| 全世界株 + 先進国株 | 先進国株が全世界株の約85%を占める | 小さい |
| 国内REIT + 国内株 | 金利感応度が近い、同一通貨 | 限定的 |
| 米国株 + 全世界株 | 全世界株に占める米国比率が約60% | 小さい |
全世界株(世界中の株式を1本で持てるETFで、MSCIオール・カントリー等の指数に連動するもの)に先進国株ETFを加えても、構成の重なりが大きく分散の厚みはほぼ増えない。同じコストを使うなら、相関の低い別のアセットクラスに振り向けた方が構造的には意味を持つ。
では相関が低くなりやすい組み合わせの方向性として、国内株式ETFと国内債券ETFの組み合わせ、あるいは株式ETFと短期国債ファンドや現金の組み合わせが基本軸になる。新興国株は先進国株と危機時に相関が収束しやすい点を念頭に置きつつ、長期平均では相関がやや低いという特性を持つ。完全に独立した動きを期待するのではなく「少し違う動きをすることもある」程度の期待値で位置づける方が現実的だ。
よくある誤解
「セクター(業種・分野)を分ければ分散できる」という理解が広まっている。IT・ヘルスケア・エネルギーなど複数のセクターETFを組み合わせれば、1セクター集中よりリスクが下がるように見える。これ自体は間違いではないが、セクターETFはいずれも株式という同一アセットクラスの中の話だ。株式市場全体が急落する局面では、セクター間の相関も収束しやすく、分散効果が薄れる。
なぜそう思いやすいかというと、平常時にはセクターごとの値動きの差が目立ち、「別のものを持っている」という実感が得られやすいからだ。
実際には、セクター分散は株式の中の振れ(ボラティリティ=値動きの大きさ)を多少なめらかにする効果はあっても、市場全体のクラッシュには正面から晒される。本質的な分散を厚くするには、株式以外のアセットクラスを組み合わせるという視点が必要になる。具体的には、国内債券ETFや短期国債ファンド、あるいは現金比率の引き上げがその選択肢に入る。
まとめ
銘柄数や見た目の多様性ではなく、相関の低さが分散の実体だ。危機時に相関は収束しやすく、どんな設計でも一定のドローダウンは避けられない。40代の文脈では、ドローダウンの深さより回復期間を引退タイミングと照らし合わせることが判断の起点になる。
「銘柄数」を増やしても
「分散」にならない理由
「たくさんのETFを持っているから安心」と思っていませんか?
相関が高い銘柄ばかりを増やしても、暴落時のリスクは減りません。
最大ドローダウン(下落率)と回復期間の仕組みをインタラクティブに学びましょう。
1. 分散の正体は「相関の低さ」
銘柄数を増やしても、それらが「同じ値動き(高い相関)」をするなら、リスクは分散されません。 以下のボタンでポートフォリオを切り替え、暴落時の値動きの違いを確認してください。
ポートフォリオ構成を選択
※イメージ図:危機発生時の資産推移シミュレーション
2. 危機時の「相関の収束」
「株式と債券は逆の動きをする」というのは平時の話です。
2020年のコロナショックのような本当の危機では、投資家が換金を急ぐため、あらゆる資産が同時に売られます。
これを「相関の収束」と呼びます。
現象 平常時 vs 危機時
対策: 分散投資をしていても「ドローダウン(下落)は避けられない」と割り切る必要があります。重要なのは「何%落ちても耐えられるか」を事前に決めておくことです。
3. 40代にとって「回復期間」は重い
40代の資産形成で最も怖いのは、引退直前に大暴落が来ることです。
一度大きく資産が減ると、元の水準に戻る(回復する)のに数年〜数十年かかる場合があります。
シミュレーター
参考: リーマンショック時S&P500は約56%下落
回復に必要なリターン
30%下落すると、元に戻すには43%の上昇が必要です。
※過去の市場平均回復速度に基づく概算です
4. 注意すべき「相関が高い」組み合わせ
「違う名前のETF」を買っていても、中身を開けるとほとんど同じというケースが多々あります。
以下をクリックして、代表的な重複パターンを確認しましょう。
まとめ:40代からのアクションプラン
ポートフォリオの中身を点検する
銘柄数に満足せず、「日本株と日本株」「先進国株と全世界株」のように重なっていないか確認しましょう。
「回復期間」から逆算する
引退まで残り15年を切ったら、回復力を重視。10年を切ったら、現金・債券比率を上げて「深手」を負わない設計へシフトしましょう。
「現金」も立派な投資判断
無理に相関の低い資産を探さなくても、現金の比率を高めるだけでポートフォリオ全体のドローダウンは確実に浅くなります。

