ドローダウン(ピークからの下落率)と、そこから元の水準に戻るまでの時間。この2つを事前に把握しておくだけで、「下落時に売るか売らないか」の判断に使える自分なりの基準が持てるようになる。
ポートフォリオの継続性を決めるのはリターンより「最大の下落と回復期間に自分が耐えられるか」だ。設計段階でこれを組み込んでおかないと、相場が荒れるたびに一から判断し直すことになる。
ドローダウンとは何か、なぜ「平均リターン」だけでは足りないのか
ETFや投資信託を選ぶとき、多くの人が最初に見るのは過去の年率リターンだ。「年平均7%のリターン」という数字は確かにわかりやすいが、それだけでは自分がそのETFを持ち続けられるかどうかはわからない。
ドローダウン(ピークからの下落率)とは、特定の期間における資産の最高値からの下落幅を示す指標だ。たとえばある全世界株(世界中の株式を1本で持てるETF。MSCIオール・カントリー等の指数に連動)に連動するETFが基準価格10,000円のときに保有を始め、その後13,000円まで上昇した後に9,100円まで下がったとする。このとき最高値からの下落率は約30%、これが最大ドローダウンの計算例になる。
なぜこれが重要かというと、人はリターンの平均値には慣れやすいが、下落の絶対額には非常に敏感だからだ。100万円が30%下落すれば70万円になる。頭では「長期で見れば戻る」とわかっていても、実際に30万円が消えた画面を見続けることと、数字の上で「30%下落もあります」と理解することは、体感として全く別物だ。
では判断にどう使うか。保有を検討しているETFについて、過去の最大ドローダウンを調べる。東証上場ETFであれば運用会社の月次レポートや目論見書に過去の値動きが記載されている場合があるし、インデックス指数の履歴ならMSCIやS&P等のサイト、または証券会社のチャート機能で確認できる。その数字を見て「自分がこれだけ下がったとき、売らずにいられるか」を具体的に想像してみる。想像できないなら、そのETFはボラティリティ(値動きの大きさ)が自分の許容範囲を超えている可能性がある。
回復期間がメンタルに与える影響
ドローダウンの深さと並んで見落とされやすいのが「回復にかかる期間」だ。同じ30%の下落でも、1年で戻るケースと5年かかるケースでは、保有者の心理的な負荷はまったく異なる。
過去の株式市場の大きな下落を見ると、回復期間にはばらつきがある。リーマンショック時に全世界株指数は高値から50%超下落し、その後元の水準に戻るまで数年を要した。一方、2020年のコロナショックでは約34%の下落後、比較的短期間で回復した。同じ「株式ETF」でも構成する地域・セクター(業種・分野)によって回復の速さは変わる。
40代で資産形成を進めている場合、回復期間の問題は特に現実的だ。60歳前後の取り崩し開始を想定するなら、残りの積み立て期間は10〜20年程度になる。この期間中に5〜10年かかるような大きなドローダウンが来ると、精神的な余裕だけでなく、運用計画そのものへの影響も出てくる。
では何をするか。保有しているETFの過去最大ドローダウンと、その回復にかかった期間を両方調べる。片方だけでは不十分だ。「最大50%下落があるが1〜2年で戻る」と「最大30%だが回復に5年かかる」では、どちらが自分に向いているかは人によって違う。前者は下落の深さに耐えられるが待てる人向け、後者は深い下落には耐えられないが長く続けられる人向けとも言える。自分がどちらの「耐え方」ができるかを確認してから選ぶ。
設計段階でドローダウンを反映する方法
「ドローダウンを理解したうえで、ポートフォリオの設計にどう落とし込むか」が実際に必要なステップだ。知識として知っているだけでは下落時に役に立たない。
一つの方法は、許容できるドローダウン率を先に決めてしまうことだ。たとえば「資産全体で最大20%以上の下落は精神的にきつい」と自分で決めたとする。その場合、株式100%のポートフォリオは過去データから見て最大ドローダウンが50%前後になることもあるため、それ単体では条件を超える。そこに債券ETFや金ETFを組み合わせることで、全体の最大ドローダウンを抑える設計ができる。
分散(複数に分けてリスクを薄める)の効果はここに現れる。値動きの相関が低い資産を組み合わせると、一方が大きく下落しても全体のドローダウンは限定されやすい。日本の東証上場ETFでも、株式・債券・REITなど資産クラスをまたいだ選択肢が揃っており、国内ETFのみで組み合わせを設計することは現実的に可能だ。
もう一つの方法は「ドローダウン時に何をするかルールを先に書いておく」ことだ。たとえば「保有ETFが30%下落したらリバランス(配分比率を元の設定に戻す作業)を検討する。それ以外では売却しない」といった形でルールを決めておくと、実際に下落が来たときに感情で判断しなくて済む。ルールがない状態で下落を迎えると、毎回ゼロから判断することになり、判断の一貫性が崩れやすい。
自分のドローダウン耐性を測る手がかり
ドローダウン耐性は人によって異なるが、「自分がどのくらい耐えられるか」を事前に正確に把握している人は少ない。体験してみないとわからない部分が大きいからだ。
ただ、いくつかの手がかりはある。まず「生活費の何ヶ月分を手元に置いているか」だ。緊急予備資金が少ない場合、ドローダウン中に急な出費が重なると投資資産を崩すことになる。その経験は「下落中に売る」という最悪のパターンに直結する。生活費6ヶ月分程度を手元に確保した上で投資に回しているなら、下落中も生活への不安が直接入ってこない分、耐えやすい。
次に、過去の自分の行動だ。2020年のコロナショック時に何をしたか覚えているなら、それが参考になる。売った、あるいは売りたくなったなら、現在のポートフォリオのリスクが自分の耐性を超えていた可能性がある。何もしなかった、あるいは買い増した、という経験があるなら、現在の設計はその時の構成に近いか確認してみる価値がある。
NISAで積み立て投資をしている場合、毎月一定額を買い続けるルールが既にドローダウン中の感情的な売却を防ぐ構造になっている面がある。ただし、大きな下落が来たときに「積み立てを止める」という判断をしないためには、やはり事前に「自分が耐えられる最大ドローダウン」を認識しておく必要がある。
よくある誤解
「ドローダウンが小さいETFほど安全で選ぶ価値がある」という理解は一面的だ。
そう思いやすい理由はわかる。下落が少ない=リスクが低いという直感は自然だし、特に初めて大きな下落を経験した後は「二度とあんな思いをしたくない」という気持ちが先に立つ。
しかし、ドローダウンが小さいということは多くの場合、長期的なリターンの期待値も抑えられているということでもある。債券中心の構成はドローダウンが小さいが、40代からの長期資産形成においては物価上昇に対する実質的な資産成長が鈍くなるリスクがある。ドローダウンを抑えること自体はコストゼロではない。
では何をするか。「ドローダウンを自分の許容範囲内に収めながら、必要なリターンも得られる構成はどのあたりか」という問いの立て方に変える。ドローダウンの最小化ではなく、自分の条件との両立を探すことが設計の本質だ。
まとめ
ドローダウンと回復期間は、ポートフォリオ設計において「長く続けられるかどうか」を左右する要素だ。過去データから最大ドローダウンと回復期間の両方を確認し、自分が実際に耐えられるかを具体的に検討した上で設計に反映させる。許容できる下落率を先に決めておくと、資産配分の判断基準が明確になる。次のステップとして「債券・株式の配分比率とドローダウンの関係」も合わせて確認しておくと、設計の精度が上がる。
「リターン」より大切な
下落への備え
「年平均7%」という数字の裏には、30%以上の下落(ドローダウン)が潜んでいます。
あなたがその下落に耐えられるか、そして回復まで待てるか。
この「心の物差し」を持つことが、投資を続けるための鍵です。
1. ドローダウンを「金額」で体感する
多くの人は「30%の下落」という数字には慣れていますが、実際の金額が減る様子を目の当たりにすると冷静ではいられません。 平均リターンだけでなく、最悪のシナリオを具体的な金額でイメージしてみましょう。
例:1,000,000
30万円 が一時的に消えます。
この画面を見続けて、売らずにいられますか?
2. 「回復期間」がメンタルを削る
下落の深さと同じくらい重要なのが「戻るまでの時間」です。 1年で戻るなら耐えられても、5年戻らないとしたらどうでしょう?特に40代以降の資産形成では、この期間がライフプランに直結します。
ケースA:忍耐型
過去のリーマンショックのようなケース。50%近く下落し、元の水準に戻るまで数年を要します。
必要な力: 深い下落に動じない鈍感力と、時間を味方につける余裕。
3. 設計段階でドローダウンを制御する
ドローダウンへの耐性は人それぞれです。「20%以上の下落は無理」とわかったなら、設計(ポートフォリオ)で調整しましょう。 株式だけでなく、債券などを組み合わせる「分散」の効果をシミュレーションします。
この配分の特徴
株式100%の構成です。最も高いリターンが期待できますが、過去データでは資産が半減するリスクもあります。精神的なタフさが求められます。
- ● 対策:下落時は「ルール」に従い、感情で売らないこと。
- ● 分散:値動きの異なる資産(債券や金)を入れると、下落幅はマイルドになります。
4. 自分の「耐性」を測る
体験してみないとわからない部分は大きいですが、いくつかの手がかりから自分のリスク許容度を推測できます。
チェックリスト
客観的な条件を確認することで、自分がどの程度のリスクを取れるかが見えてきます。
⚠️ よくある誤解:「下落が小さい=最良」ではない
「二度とあんな思いをしたくない」とドローダウンを極端に嫌うと、別のリスクに直面します。それは「インフレ負け」です。
リスクを抑えすぎたポートフォリオ(債券のみ等)は、物価上昇に対して資産が増えない可能性があります。 ドローダウンの最小化ではなく、「許容範囲内に収めつつ、必要なリターンを狙う」バランスが重要です。
Point
コストゼロの「安心」はありません。下落への耐性と、将来の購買力維持はトレードオフの関係にあります。

