セクターローテーション(業種・分野の資金移動サイクル)を使っているのに、なぜか裏目に出る局面がある。この記事を読むと、ローテが崩れる典型パターンと、その状況でサテライト比率や撤退ルールをどう変えるかの判断軸が手に入る。
セクターローテーションが機能しない局面は「例外」ではなく、相場の3〜4割を占める可能性がある。機能しない条件を知らずに運用すると、「理論通りに動いたはず」の取引で連続して損失が出る。
「サイクル通りに動かない」と感じたときに起きていること
セクターローテーションを実践している人が最初にぶつかる壁は、「教科書と逆の動きをした」という経験だ。景気拡張期だからエネルギーや素材が上がるはずなのに、テクノロジーが独走している。あるいは景気後退の兆候が出ているのに、ディフェンシブ(生活必需品・公益)より成長系が買われ続ける。
この現象には構造的な理由がある。セクターローテーションの理論は、景気サイクルと金利サイクルが同期していて、機関投資家が業績見通しに基づいてじっくりポジションを移動させることを前提にしている。現実には、この前提が崩れる局面が複数存在する。
崩れる原因は主に3種類に絞られる。強いトレンド相場、テーマ・ナラティブが支配する相場、そして政策が価格を動かす相場だ。それぞれで崩れ方が異なるため、「ローテが機能しているかどうか」の判断軸も変わってくる。具体的には、自分のポートフォリオにサテライト枠(コア以外の戦術的な配分)を設けている場合、この3パターンに入ったと判断した時点でそのサテライト枠の縮小、または一時撤退のトリガーにする、という使い方ができる。
トレンド相場:「全部上がる・全部下がる」でローテが意味を失う
セクターローテーションは、資金が「どこかから出て、どこかへ入る」という相対的な動きに乗るアプローチだ。ところが、強いトレンド相場では資金が市場全体に流入または流出する。
強気トレンドの局面では、例えばコア・サテライト戦略でコアに「全世界株(世界中の株式を1本で持てるETF)」を持っている投資家は、サテライトでセクターETFを追加しても、コアが既に全セクターを内包しているため「どこへ乗っても似たようなリターン」になりやすい。逆に弱気トレンドでは、ディフェンシブセクターに乗り換えても市場全体の下落幅が大きく、絶対リターンはマイナスが続く。
判断の分岐点として整理すると:東証上場のセクターETFで12ヶ月騰落率を確認したとき、上位3セクターと下位3セクターのリターン差が10%未満であれば、ローテのシグナルより全体相場のトレンドが支配的と見てよい。この場合、サテライト枠でのセクター入れ替えは一時停止し、コアの比率を高めるか、サテライト枠を現金に戻す選択が合理的な対応になる。セクター間の分散(業種・分野を複数に分けてリスクを薄める)より、ポジション全体のサイズ管理を優先する局面だ。
テーマ相場:業績サイクルではなく「物語」が価格を動かす
AIブーム、脱炭素、防衛増強——こうしたテーマが相場を支配しているとき、従来のセクター区分は形骸化する。AIなら情報技術だけでなく電力・インフラまで動き、防衛ならエネルギーや素材の一部も引っ張られる。「業績の現在地」より「将来の物語への期待」が価格を決めている状態だ。
テーマ相場の特徴は、ボラティリティ(値動きの大きさ)が高く、かつセクター内の銘柄間格差が大きくなることにある。同じ「情報技術セクター」でも、テーマに直接絡む銘柄と関係の薄い銘柄でリターンが大きく乖離する。東証上場のセクターETFは業種単位での一括投資になるため、テーマ相場では「当たりも外れも一緒に持つ」状態になりやすい。
ここでの判断軸は二段階になる。まず「今の相場がテーマ主導かどうか」の確認。方法は、セクターETFの月次リターンとそのセクターの12ヶ月先PER(株価収益率の先行予測値)を並べたとき、PERが急騰しながらリターンも高い状態が続いていれば、業績ではなく期待が先行している可能性がある。次に「テーマ相場に乗るかどうか」の意思決定。乗る場合は、サテライト枠の中でもテーマETF(東証上場のテーマ型ETFで流動性と信託報酬=ETFを保有している間かかる年間コストを確認した上で)に限定し、枠全体の15〜20%以内を目安にする。乗らない場合はコアに戻し、テーマが終息したあとの通常ローテを待つ、というシンプルな二択で十分だ。
政策相場:中央銀行と財政政策がセクターの優劣を上書きする
金融緩和・引き締め、財政出動、業種別規制——こうした政策変数が大きく動くとき、セクターローテーションの前提である「景気サイクル→業績→株価」という経路が短絡する。政策が直接業種の収益構造を変えるからだ。
典型例は金利だ。急激な利上げ局面では、景気サイクル上は「成熟期」に向かっていても、バリュエーション(株価の割高・割安の尺度)が高い成長系セクターが先に売られる。逆に急激な利下げ局面では、景気後退期にもかかわらず不動産・公益・高配当系が上昇することがある。日本市場では加えて為替介入・日銀政策変更が輸出関連と内需関連の比率を短期間で逆転させる。
政策相場に入ったと判断するための目安として、以下の条件を参考にできる:
- 日銀の金融政策決定会合や米FOMCの結果を受けて、翌週のセクター騰落率上位と下位が逆転した場合
- 政府の補正予算・業種別支援策の発表後、特定セクターが3営業日連続で5%以上の騰落を記録した場合
この状態ではセクターローテーションのシグナルを止め、政策の影響が一巡するまでの間、サテライト枠を縮小する判断が現実的だ。政策のタイミングを当てにいく取引はリスク(想定よりブレる可能性)が高く、40代の資産形成においては「乗れなかった分は許容する」という割り切りの方が長期的に機能しやすい。
撤退条件をどう設定するか:サテライト比率への反映
上の3パターンを整理した上で、実際にどのような撤退ルールをポートフォリオに組み込むかを考える。「何となく調子が悪いから撤退」では再現性がなく、次の判断につながらない。
以下のような条件分岐で整理できる:
| 状況 | サテライト比率の目安 | セクターローテーションの扱い |
|---|---|---|
| 通常のサイクル相場 | 20〜30% | 積極運用 |
| トレンド相場(全体上昇・下落が強い) | 10%以下に縮小 | 一時停止、コア比率を高める |
| テーマ相場(特定テーマが市場を牽引) | 15〜20%(テーマETFに限定) | ローテより個別テーマに集中 |
| 政策相場(金利・財政が主因) | 5〜10%に縮小または現金待機 | 政策の影響が落ち着くまで停止 |
NISAの成長投資枠でセクターETFを使っている場合、売却しても年間枠は戻らないため「売って待機」の判断コストは高い。この場合は「新規追加をしない」「リバランス(配分比率を元の設定に戻す作業)でセクターETFへの追加配分を止める」というかたちで比率を自然に下げる方法が現実的な対応になる。
撤退条件は「決める」より「事前に書き留めておく」方が実際には機能しやすい。「このセクターETFはドローダウン(ピークからの下落率)が15%を超えたら追加しない」「政策相場と判断した月は新規スイッチングをしない」というように、自分の言葉で条件を明文化しておくことで、相場が動いているときの感情的な判断を減らせる。
よくある誤解
「ローテが機能しないなら、最初からやらない方がいい」という結論に飛ぶ人がいる。機能しない局面があることがわかると、戦略自体への信頼を失いやすいからだ。
しかし実際には、機能しない局面を識別できること自体がローテ実践の精度を上げる。機能しない3パターン(トレンド相場・テーマ相場・政策相場)は、いずれも一定期間で終息し、通常のサイクル相場に戻る。機能しない間に無理にローテを続けるから損失が積み上がるのであって、「今は機能しない局面だ」と判断して手を止めるだけで、結果は変わってくる。
では何をするか。まず自分の直近の取引を振り返り、「機能していない」と感じた局面がどのパターンに当てはまるかを確認する。次に、そのパターンに対応する撤退条件を一つ決めてメモしておく。全部を一度に整備する必要はない。「このパターンに入ったらこうする」という条件が1つあるだけで、次の同様の局面での判断は変わる。
まとめ
セクターローテーションが機能しない局面は、トレンド相場・テーマ相場・政策相場の3パターンに分類できる。それぞれで崩れ方が異なるため、サテライト比率の縮小や取引停止のトリガーも変わってくる。「機能しない条件を知ること」がローテ精度を上げる入り口になる。
🔄 セクターローテーション・ナビゲーター
Interactive Guideなぜ「理論通り」に動かないのか?
セクターローテーションが機能しない局面は「例外」ではなく、相場の3〜4割を占めます。
景気サイクルと業績がリンクする前提が崩れる「3つの条件」を知らずに運用すると、損失が積み重なります。
このツールで、現在の相場環境を診断し、最適なサテライト比率を見つけましょう。
1. 相場環境の診断:機能しない3つのパターン
「おかしい」と感じたら、どのパターンに当てはまるか確認してください。タブを切り替えると、典型的なチャートの動きと判断基準が表示されます。
セクター間リターンの比較(12ヶ月)
※イメージ図:典型的なパターンの再現
🔍 何が起きているか(現象)
資金が市場全体に一気に流入・流出するため、セクター選別の意味が薄れます。コア(全世界株など)が全セクターを内包しているため、あえてサテライトで偏らせてもリターン差が出にくい状態です。
📏 判断の分岐点
上位3セクターと下位3セクターの12ヶ月騰落率差が10%未満。セクター間の分散より、ポジション全体のサイズ管理が優先されます。
2. 戦略的撤退:サテライト比率シミュレーター
「今の相場」を選択してください。推奨されるポートフォリオ配分と、具体的なアクションプランを提示します。
現在の状況を選択
推奨ポートフォリオ配分
アクションプラン
基本戦略通り、景気サイクルに合わせてセクターを積極的に入れ替えます。
💡 NISA成長投資枠の扱い
売却すると年間枠は戻らないため、「売って待機」のコストは高いです。
📝 撤退ルールの言語化
相場が動いている時の感情的な判断はミスのもとです。事前に条件を書き留めましょう。
- ▪ 「ドローダウンが15%を超えたら追加しない」
- ▪ 「政策相場と判断した月はスイッチングしない」

