11の業種を、景気が良くなると利益が増えやすい業種(景気敏感)と、景気が悪くても売上が落ちにくい業種(守り)の二つに分ける。 あとは景気の局面に合わせてスイッチするだけで、相場を攻略できるという発想だ。
景気循環の図は確かに分かりやすい。 景気が回復すれば敏感な業種を買い、後退すれば守りの業種を買う。 矢印で示される順番は、複雑な市場を単純な手順に見せてくれる。
だが、この理解は実際の運用の現場で破綻する。 相場が動く主な原因は、景気だけではないからだ。 お金を借りるコスト(金利)や、物価の上昇、資金の余裕などが同時に走る。 景気以外の要素が強い局面では、敏感か守りかという線引きが役に立たない。
景気だけを見て投資先をスイッチすると、判断のタイミングを間違えて損失の原因になる。
今の相場が成長主導か、お金を借りるコスト(金利)主導かを切り分ける。 この切り分けに合わせて、スイッチの可否を決めるのが今回の目的だ。
なぜこの仕組み/ルールが存在するのか
特定の業種を入れ替えて利益を狙う手法(セクターローテーション)の本質は、当て物ではない。 毎回ゼロから銘柄を選び直すと、判断基準がバラバラになり、感情に引きずられてしまう。 自分たちのような個人は、情報の量でプロには勝てない。 だからこそ、少ない情報で自分が持っている資産の組み合わせ(ポートフォリオ)の性格を入れ替える枠組みが必要になる。
このルールは、何を買うかより先に、どんな想定よりブレる可能性(リスク)を持つかを固定するためにある。 景気が拡大する局面では、利益が伸びやすい企業群に賭ける。 景気が落ち込むときは、需要が減っても売上が崩れにくい企業群で下振れを耐える。 銘柄選びをサボるためではなく、景気と利益の連動具合を道具として扱うのがルールの正体だ。
景気敏感とは、企業利益が世の中の需要や雇用に対して伸び縮みしやすい性質を指す。 守りとは、需要が落ちても売上が落ちにくい性質を指す。 値動きの大きさ(ボラティリティ)で分けるのは間違いだ。 実務上の分類は、利益が景気にどれだけ反応するかと、お金を借りるコスト(金利)の変化にどれだけ弱いかで決まる。
構造の全体像を描く
この話の登場人物は四つ。 投資家と、各業種の企業と、金利を決める債券市場と、お金の流れを作る株式市場だ。 投資家は景気が良いか悪いかという物語を欲しがり、判断を楽にしようとする。 企業は景気と金利の両方から影響を受け、利益やコストが変化する。
債券市場は物価の見通しなどを凝縮して、お金を借りるコスト(金利)を形作る。 株式市場の需給は、こうした見通しの変化が実際の資金の移動として現れる場所だ。
重要なのは、どこで価格が動くかと、中身がどう変わるかを分けることだ。 価格は期待の変化と資金の流れで動く。 一方で、セクターを構成する企業の質や利益の出し方は、短期間では変わらない。 短期的に変わるのは、景気や金利の見通しだけだ。
企業の中身は変わらないのに、価格だけを見て業種の性格を決めつけると失敗する。
メカニズムの核心:何がどう動いて結果が出るか
因果関係はこう整理できる。 原因は景気見通しの変化か、お金を借りるコスト(金利)の見通しの変化だ。 その間に、1株あたりの利益がどれくらい増えそうか(EPS)という期待と、将来の利益を今の価値に直す計算(割引率)が入る。 その結果として、どの業種が他より勝つかという差が生まれる。
初心者が混同しやすいのは、スイッチを景気一本で決めてしまう点だ。 実務では、同じ景気悪化でも、金利が下がる局面と上がる局面で勝てる業種が変わる。 金利低下は将来の成長の価値を高める。 すると景気が悪くても、情報技術などの成長株が崩れにくい局面が発生する。
反対に、金利上昇は守りの代表とされる公益や不動産を直撃する。 守るつもりで買ったものが、金利のせいで崩れる事故が起きる。
判断の入り口を二段構えにする。
第一に、今の相場は成長主導か金利主導かを判定する。 第二に、成長主導なら景気でスイッチし、金利主導なら守りの中でも金利に弱いものを避ける。 この二段構えがないルールは、どれほど分類が正しくても負けてしまう。
実際の市場シーンで考える
ある週に米国の雇用指標が悪化し、物価指数は高いままだったとする。 ニュースの見出しだけを見れば、景気悪化だから守りに寄せようと考えたくなる。 生活必需品やヘルスケアに資金を移動させ始める。
だがその直後、債券市場で金利が反発し始める。 景気は悪いが物価が高いので、利下げが遠のくと市場が解釈したからだ。 このとき、守りとして買った公益や不動産は、金利上昇に弱いために思ったほど守ってくれない。 景気が悪いのに成長株も金利のせいで弱くなる。
ここで起きる典型的な誤判断は二つだ。 一つは、景気だけを見て守りに寄せ、金利の反発で一部の資産を踏み抜くこと。 もう一つは、目先の価格が上がらないのを見て、ルールのせいにして投げ出すことだ。 見るべきはニュースの見出しではない。 景気ショックなのか、金利ショックなのかを見極めるべきだ。
この理解がもたらす判断力
特定の業種を入れ替える設計は、分類を決めるより、スイッチする条件を決める方が先だ。 最低限、成長主導か金利主導かを毎回判定する癖をつける。 直近の変化が、企業の売上見通しによるものか、お金を借りるコスト(金利)の見通しによるものかを言語化する。 自分の言葉で説明できないなら、その週のスイッチは見送るのが正解だ。
次に、比較の軸を固定する。 価格の強弱だけで性格を判定しない。 利益が景気に敏感か、金利上昇に弱いか、資金の偏りがないかを確認する。 守りの名札を貼られた公益や不動産は、金利上昇にはめっぽう弱い。 ここを理解すれば、守りに入れたのに資産が減るといった現象を、条件分岐として処理できる。
最後に、最大の罠を潰しておく。 スイッチを毎回やりたくなる衝動を抑える。 回数が増えるほど、手数料などのコストと誤差が積み重なり、ルールの優位性が消える。 この手法は売買を増やすための道具ではない。
11セクターを「景気敏感⇔守り」で切り替える最小ルール
「景気が良ければ敏感株、悪ければディフェンシブ」という単純なスイッチは、実務では破綻します。
今の相場が「成長主導」か「金利主導」かを見極め、誤ったタイミングでの損失を防ぐための設計図をここに示します。
1. 初心者の誤解 vs 実務の現実
多くの投資家は「景気循環」だけでセクターを選ぼうとします。しかし、市場を動かすのは景気だけではありません。 以下のカードを切り替えて、視点の違いを確認してください。
単純な二分法
「手順」としては分かりやすいが、金利やインフレなどの別変数を無視しているため、事故が起きやすい。
二段構えの判断
・金利主導 → 「守り」でも金利に弱い株は避ける
景気だけでなく「割引率(金利)」の変化を組み込むことで、”守りのつもりが大損”という事故を防ぐ。
2. 市場レジーム判定マトリクス
セクターローテーションの核心は、状況に応じた「条件分岐」です。 現在の「景気見通し」と「金利見通し」を入力し、推奨される戦略とセクター動向を確認してください。
待機モード
上のボタンで現在の市場環境(景気と金利の方向性)を選択してください。レポートに基づいたセクター戦略が表示されます。
予想相対パフォーマンス
※概念的な強弱を示すイメージです
3. 市場を動かす4つの主役
価格は「期待の変化」と「資金の流れ」で動きます。誰が何を見ているのかを整理しましょう。
投資家
「景気が良いなら敏感株」という簡単な物語を欲しがる。判断を省力化しようとする主体。
企業
中身(実力)は短期では変わらない。変わるのは景気・金利による利益環境とコスト。
債券市場
物価・景気見通しを凝縮し「金利」を作る。株式の「割引率」を動かす裏の支配者。
株式需給
見通しの変化が「資金移動」として表面化する場所。価格形成の最終地点。
4. 実践ケーススタディ:その判断は正しいか?
レポートにある実際の市場シーンを再現します。あなたの判断を選択してください。
「米雇用統計が予想を下振れ、しかしインフレ率は高止まり」
ニュースが出た直後です。市場は「景気悪化」を懸念し始めています。
あなたならどう動きますか?
「景気悪化」だけで守りに動くと、インフレによる「利下げ遠のき(金利反発)」で、金利に弱い公益・不動産が下落する場面に巻き込まれます。これが典型的な「誤ったタイミング」でのスイッチです。
5. セクターローテ運用チェックリスト
投資を「占い」から「設計」に変えるための週間ルーティンです。



