勝率が高い戦略ほど優秀だ、という思い込み。 バックテストの結果に勝率70%と出ると、自分もつい安心してしまいそうになる。 負ける回数が少ない方が安定しているように見えるから。
けれど、この理解は運用の現実を前にすると簡単に壊れる。 相場で本当に怖いのは、負ける回数ではない。 たった一度の負けが、資産とあなたの判断力をどれだけ破壊するか。 勝率は安心感には効くけれど、生き残るためにはあまり役に立たない。
この記事の目的は、戦略の評価を「勝ち負け」から切り離すことにある。 リスク、つまり想定よりブレる可能性を示す数字で、続けられる戦略かどうかを判定してほしい。 読み終わる頃には、勝率の高さに飛びつくことはなくなるはず。 最大の下落幅や、そこからの回復時間で、採用するかどうかを自分で決められるようになる。
なぜこの仕組み/ルールが存在するのか
リスクを測る指標が必要な理由は、シンプル。 市場で解くべき問題は、儲かるかどうかではなく、運用を続けられるかだから。 セクターローテーションは、局面に合わせて投資先を入れ替える。 ここでルールが壊れるとき、最初に犠牲になるのは運用者の精神状態。
自分たちは、損失をいつか取り返せるただの数字として扱えない。 資産が大きく削られるほど、次の判断は歪んでいく。 現実には、損失が一定ラインを超えると、資金を引き上げざるを得ない状況も出てくる。 戦略の評価は、理論上の期待値ではなく、破綻や撤退を引き起こさないかの確認だと言える。
だからこそ、勝率ではなくリスク指標が重視されるようになった。 市場が求めているのは、高い平均リターンではない。 大きな傷を負わずに、リターンを積み上げ続ける再現性。 ここだけ押さえるなら、大切なのは「致命傷を避けるルール」の確認だ。
構造の全体像を描く
この話の登場人物は、四人いれば十分。 第一に投資家であるあなた。当たり外れの物語に引っ張られ、勝率という分かりやすい数字を信じやすい。 第二に、戦略の設計者。彼らはバックテストで見栄えの良い結果を作れるけれど、それが使いやすいかどうかは別問題。
第三に市場。セクターを入れ替える以上、取引にかかるコストや、思い通りの値段で売買できない環境の影響は無視できない。 第四に、自分自身のリスク管理。戦略をダメにするのは、市場の急変だけではない。 耐えられない損失に直面したときに、自分自身がルールを破ってしまうことが一番のリスクになる。
ここで分けるべきは、価格が動く場所と、中身が変わる場所。 ローテーション戦略のテストは、各セクターの成績と、配分ルールを組み合わせて作る。 勝率はこの結果を雑にまとめたものに過ぎない。 リスク指標を使えば、その組み合わせのどこに弱点が隠れているかがはっきり見える。
メカニズムの核心:何がどう動いて結果が出るか
まず、勝率の定義を確認する。 ある期間でプラスになった回数の割合。 損失が出る頻度を知るためには必要だけれど、損益の大きさが抜け落ちている。 小さく勝って一度に大きく負ける戦略でも、勝率だけは優秀に見えてしまう。
ここでリスク指標の出番。 まず、最大ドローダウン。これは過去の最高値から最安値までの、最大の下落率。 資産が一度大きく沈むと、元に戻るために必要な上昇率は、負けた分以上に大きくなる。 20%負けたら、取り戻すには25%の利益が必要になる、という具合。
次にボラティリティ。値動きの大きさ。 同じ年率リターンでも、揺れが大きいと途中で耐えられなくなって行動が乱れる。 揺れあたりの効率を測るのが、シャープレシオ。 ローテーションは、当てることより、無駄な揺れを抑えて取る設計になりやすいから、この数字が重要になる。
さらに、下振れに対する効率を見るのがソルティノレシオ。 そして、最大の下落幅に対してどれだけ稼げたかを測るのがカルマーレシオ。 ここだけ押さえるなら、過去にどれだけ深く沈み、どれだけ早く戻ったかを見ればいい。 過去の最大の下落を超える場面は必ず来るから、沈み方を確認するのは必須の作業。
因果関係で整理すると、こうなる。 原因は、相場の雰囲気がガラッと変わるレジーム転換。 その結果として、ドローダウンの深さや、回復までの時間、効率の悪化が現れる。 勝率はこの鎖の最後を見ないから、判断を誤る。
ローテーションの機能が弱まる条件も覚えておきたい。 相場の急変で売買コストが跳ねるとき。 入れ替えのタイミングが遅くて、暴落をまともに食らってしまうとき。 これらは勝率には出にくいけれど、下落幅と回復時間には容赦なく影響する。
実際の市場シーンで考える
2020年3月のコロナショックを思い出してほしい。 例えば、過去10年のテストで勝率72%という戦略を使い始めたとする。 設計者は、平穏な時に勝ちやすい配分を作っていた。 バックテスト上の負けは確かに少ない。
けれど、急落が始まると状況は一変する。 あらゆるセクターが一斉に下がり、分散の効果が消える。 月末に入れ替えるルールだと、途中の急落をすべて抱え込むことになる。 市場の売買コストも増え、資産は削られていく。
この時、勝率だけを見ていると、「勝率が高いからいずれ勝つ」と無理に耐えてしまう。 起きている現実は、勝率の問題ではない。 資産が30%沈めば、元に戻すには約43%の上げが必要になる。 沈んでいる時間が長いほど、投資家はルールを破って、最悪のタイミングで投げ出す。
このシーンで見るべきものは、負けた回数ではない。 慌てるべきは、下落が想定範囲を超えたかどうか。 そして、回復に必要な期間が、自分の資金計画で耐えられるかどうか。 勝率で安心すること自体が、判断を狂わせる引き金になる。
この理解がもたらす判断力
第一に、戦略を見た瞬間に勝率の誘惑を断ち切れるようになる。 最大ドローダウンと、何ヶ月で高値を更新したかを確認してほしい。 その戦略が、自分の許容できる損失と、待てる時間に合うかが即座に分かる。 勝率が高くても、回復が遅い戦略は、個人の運用には向かない。
第二に、リターンの高さではなく、リスクあたりの効率で比較できるようになる。 どれだけ揺れて、どれだけ沈んで、その対価として何を得たか。 ローテーションは、事故を起こさずに積み上げることこそが価値。 だから、効率を示す指標が評価の本体になる。
第三に、バックテストの罠を避けられるようになる。 期間分割、つまり時期をいくつかに区切って、再現性を確かめてほしい。 全期間の平均が良くても、インフレや金利ショックの時に崩れる戦略は、現実では使えない。 複数の相場局面で、最大ドローダウンが破綻していないかを確認する。 ここをサボって勝率だけを見るのは、ただの願望。
生存戦略ガイド
バックテストは
「勝率」ではなく
「生き残れる指標」で読む
「勝率70%」という数字に安心していませんか?
相場で致命的なのは「負けの回数」ではありません。
たった一度の負けが、あなたの資産と判断力を破壊するかどうかです。
本記事のゴール
戦略の評価を「勝ち負け」から引き剥がし、リスク指標(最大ドローダウンや回復期間)を使って 「運用を続けられる戦略か」を判定できるようになること。
なぜ「勝率」だけでは死ぬのか
勝率は「損益の大きさ」を無視します。9回小さく勝って、1回で全てを吹き飛ばす戦略も、勝率は90%です。
最大の問題は、資産が減った後の「回復の難易度」です。以下のシミュレーターで体感してください。
損失からの回復シミュレーター
元に戻すために必要な利益率
11.1%
資産が10%減ると、残りの90%を元本(100%)に戻すには約11%の利益が必要です。まだ取り返せます。
生き残るための「5つの指標」
勝率という「気分の指標」を捨て、生存のための「リスク指標」を装備しましょう。
以下のカードをクリックして、各指標の意味と見方を確認してください。
最大ドローダウン (Max Drawdown)
過去の最高値から最安値までの最大下落率です。これが深いほど、元に戻るまでの時間が指数関数的に伸びます。
誤解:「一時的に戻るなら問題ない」
現実:戻るまでの期間が長いほど、資金拘束と心理負荷で撤退確率が上がります。これは“痛み”ではなく“継続可能性の上限”です。
戦略A(高勝率型) vs 戦略B(生存重視型)の比較
2020年3月:コロナショックの教訓
「バックテスト勝率72%」の戦略が、現実の危機でどう機能不全に陥ったかを確認します。
相関、流動性、心理が崩壊するプロセスを見てみましょう。
1. 平穏な日常
2020年1月-2月上旬。設計通りの配分で利益が出る。勝率への信頼が高い状態。
2. 急落開始と相関の崩壊
2月末。全セクターが一斉に下落(相関が1へ)。分散効果が消え、逃げ場がなくなる。
3. 心理的限界と撤退
3月中旬。ドローダウンが想定を超え、コストも増大。「いつか戻る」と信じられず、底値で売却。
運用可否の判断チェックリスト
この理解がもたらす判断力。新しい戦略に出会ったら、勝率ではなく以下を確認してください。



