資本財(設備・機械・インフラのこと)は、景気が良いと上がり、景気が悪いと下がる。
だからGDPや景気指数だけ見れば十分。受注なんて決算資料の飾り。
こう考える人は多い。
実際、ニュースでも「景気敏感株=資本財」とひとくくりにされがちだ。チャートも、それっぽく説明できてしまう。
しかし、この読み方のまま相場を見るとズレる。
資本財は「売上が出たから上がる」セクターではない。
まず押さえたいのは、売上の正体。
売上は、過去に取った受注を今こなしている数字にすぎない。つまり、すでに決まっていた仕事の消化分。
一方で、本当の変化はもっと手前で起きる。
発注が増えるか減るか。その結果として受注がどう動くか。ここが起点になる。
そして株価は、さらにその先を読む。
次の受注が増えそうか、減りそうか。市場はそこを先回りして織り込む。
だから、こんな動きが起きる。
- 売上は強いのに、株価は弱い
- 景気はまだ悪そうなのに、株価は先に底を打つ
GDPや売上だけでは、こうしたズレを説明しにくい。
しかし、受注という入口から見ると筋が通る。
この記事でやるのは、その整理だ。
資本財を設備投資サイクルの中で捉え直す。そして、受注という先行データから次の業績を読む視点を持つ。
読後に身につく切り分けは、次の3つ。
- 発注する側の判断が変わったか
- 受注(入口)が増えたか、減ったか
- バックログ(受注残の積み上がり)が業績をどこまで支えているか
資本財が動いた日に、「景気が良い」「悪い」で終わらせない。
まずはこの順番で見る。それだけで、読み違いは大きく減る。
なぜこの仕組み/ルールが存在するのか
資本財がややこしい理由はシンプル。
買ってすぐ売上になる商品ではない。
設備・機械・建機・電機・航空機は、単価が高い。
さらに納期が長い。加えて仕様も案件ごとに変わる。
発注側は「今ほしいから買う」というより、数年先の生産能力を増やす判断をする。
つまり、目線が未来に置かれている。
一方でメーカー側も、受注した瞬間から動き出す。
部材を押さえる。工程を確保する。外注を割り当てる。資金繰りも背負う。
そして保証や保守の責任まで乗ってくる。
だから、この世界を売上だけで追うと現在地が見えにくい。
売上は過去に取った受注を、いまさばいた結果にすぎない。
そのため、今の需要の温度を直接は映さない。
売上だけで読むのを放置すると、困ることが2つ出る。
転換点が遅れて見える
相場が知りたいのは「これから」。
しかし売上が語るのは「これまで」になる。
だから、崩れてから気づきやすい。
しかも気づいた時には、株価はすでに動いた後になりがち。
実務の動きと投資判断が噛み合わない
設備投資は、止めるにも再開するにも時間がかかる。
メーカー側も、人員や設備を急に増やしたり減らしたりできない。
つまり現場は、短期の景気よりも慣性で動く。
だから投資判断も、売上みたいな「遅い数字」だけだとズレる。
そこで市場は、もっと早い合図を欲しがる。
それが設備投資サイクルであり、受注だ。
資本財の入口は「需要が何個あるか」ではない。
「将来の能力を増やす」と決めるかどうか。入口はこっちになる。
この入口を見える化するために、受注・バックログ・新規受注指数が使われる。
決算資料の飾りではない。相場のスピードに合わせて読むための道具だ。
構造の全体像を描く
登場人物は4人。
資本財が読みづらいのは、この4人の都合がズレるから。
① 発注者(企業、ときどき政府・公共)
発注者は、需要の見通しと資金調達のしやすさで設備投資を決める。
やる/やらない/先送り。この3択になる。
ここで重要なのは、設備投資が「売上の延長」ではない点だ。
将来、本当に稼働して回収できるか。そこに賭ける行為になる。
② 資本財メーカー(設備を作る側)
メーカー側の流れは、これで足りる。
- 受注を取る
- バックログ(受注残)として積み上がる
- 時間をかけて出荷し、売上になる
つまり、こう整理できる。
- 受注=入口
- バックログ=途中のたまり
- 売上=出口
③ 金融(信用環境)
金融は、発注者の判断を揺らす存在だ。
特に効くのが金利になる。
金利は「お金を借りるコスト」。
これが上がると投資の採算が悪くなる。すると発注は先送りされやすい。
④ 投資家(株価を動かす側)
投資家は、この鎖の先を値付けする。
見るのは「いまの売上」よりも、次の変化だ。
次の受注。稼働率。利益率。
だから株価は、決算という結果より、受注の向きという予兆で動きやすい。
メカニズムの核心:何がどう動いて結果が出るか
まず、全体の流れを1本にまとめる。
原因は2つだけ。
- 需要の見通しがどうか
- 資金条件がどうか
この2つから、会社の中はこう流れる。
設備投資をやるか決める
→ 受注が増減する
→ バックログが増減する
→ 工場の稼働率が動く
→ 利益率が動く
株価は、この結果を「将来利益の期待が上がった/下がった」として先に反映する。
つまり株価は最後ではない。途中、むしろ入口寄りで動きやすい。
設備投資サイクル
設備投資サイクルは、発注側が景気や採算で投資を増減し、その波がメーカーの受注や利益へ時間差で届く流れ。
資本財の需要は「今売れるか」ではない。未来の能力を増やすかどうかが入口になる。
ここがいちばん誤解されやすい。
景気後退=投資ゼロ、にはならない。
最初に削られるのは新規の計画だ。
一方で、すでに動いている案件は惰性で進みやすい。だから売上はしばらく強く見える。
ここで安心すると危ない。
入口(新規受注)の崩れを見落とすからだ。
受注(Orders)
受注は、メーカーが契約として取り込んだ「将来売上の約束」になる。
売上は納期の先に出る。だから受注がいちばん早く方向を示す。
ただし、受注が増えた=儲かる、ではない。
たとえば、こんな受注は利益率を壊す。
- 値引きで取った受注
- 原価が上がる局面で取った受注
- 納期延長でコストが膨らむ受注
ここだけ押さえる。
受注は「量」だけで読まない。「値段」と「コスト条件」までセットで見る。
バックログ(Backlog)
バックログは、受注したがまだ出荷していない仕事の積み上がりだ。
売上のクッションになり、短期の景気ブレに対して業績がどれだけ粘るかを決める。
誤解は「バックログが多い=強い」で止めることだ。
バックログが厚いときほど、すでに後半戦の可能性がある。
つまり、たまりが大きいのに新規受注が鈍り始めている局面だ。
上流(新規受注)が止まれば、たとえ厚くてもいずれ減る。
PMI/ISMの新規受注
PMI/ISMの新規受注は、製造業の調査で「新しい注文が増えているか減っているか」を見る指標。
個社の受注は決算まで待つ必要がある。一方でこちらは月次で、業界全体の入口の温度が出る。
見るべきは水準より方向だ。
50を割ったら即アウト、ではない。
ただし、下り始めた局面は要注意になる。
新規案件の優先順位が落ちやすいからだ。
ブック・トゥ・ビル(Book-to-Bill)
ブック・トゥ・ビルは、受注を売上で割った比率だ。
- 1を超える:受注が売上より多く、バックログが増える方向
- 1を割る:バックログを食いつぶす方向
これは「売上が強い理由」を切り分ける道具になる。
入口が強いのか。出口の消化が速いだけなのか。ここを分けられる。
ただし、短期の上下を真に受けない。
大型案件の有無や検収タイミングでブレるからだ。
見るのはトレンドだ。
加えて、キャンセルの気配も一緒に拾う。
先行指標が効かない場面もある
受注が先行として機能しにくいのは、だいたい3つだ。
- キャンセルが増えるとき
- 納期が極端に伸びて、検収がずれるとき
- 供給制約で、受注はあるのに作れないとき
この局面は、受注が強く見える。だから株価も一瞬もつことがある。
しかし、利益率が別方向に崩れる。
入口だけ見て勝てる相場ではない。
受注の「中身」と、稼働率・原価・納期を同時に見る必要がある。
実際の市場シーンで考える
場面は金利上昇。
「売上は強いのに、株が先に弱る」あのパターン。
インフレがなかなか落ちず、利上げが続く。
社債利回りが上がり、信用スプレッドも広がる。つまり借りる条件が悪くなる。
発注側のCFOは、まずここを見る。
資金調達コストと、投資して回収できるまでの時間だ。
最初に止めるのは新規の拡張投資になる。
次に、更新投資も先送りが増える。
ただし、すでに契約した案件は止めにくい。
違約金がある。工程もすでに動いている。現場も止まらない。
だからメーカーの決算は強く見える。
バックログが厚い。出荷が進む。売上が伸びる。
ここだけ見れば「資本財はまだ強い」と判断しやすい。
しかし株価は、別のものを見ている。
新規受注指数が下がる。設備投資計画が減る。
そして、バックログが「積み上がる局面」から「食いつぶす局面」へ変わる兆しが出る。
投資家が織り込む順番はこうだ。
次の受注が減る
→ そのうち稼働率が落ちる
→ 値引きが増える
→ 利益率が落ちる
売上が崩れる前に、この未来を先に売る。
だから株価が先に弱る。
ここでやりがちな誤判断は2つ。
誤判断①:売上が強い=需要が強い、と決めつける
実際は、過去受注の消化で売上が保たれているだけかもしれない。
入口(新規受注)は、すでに弱っている可能性がある。
誤判断②:受注の名目額だけで安心する
インフレ局面では単価が上がり、金額は保てる。
しかし数量ベースでは、案件が減っていることがある。
慌てるべきかどうかは、入口のデータに出る。
たとえば次が揃うなら、売上の強さは「最後の強さ」の可能性が高い。
- 新規受注指数の低下が続く
- ブック・トゥ・ビルが1を割って定着する
- キャンセルや納期延長が増える
この理解がもたらす判断力
資本財は、景気より入口を見る。
値動きの理由を「入口」で説明できる
値動きを「景気が良い/悪い」で片づけない。
代わりに「入口が強い/弱い」に置き換える。
見るべきは売上ではない。
受注と、新規受注指数の向きだ。
売上が強いのに株が弱い。
このとき相場は、いまの出口ではなく、次の入口を見ている。
そう因果で説明できるようになる。
同じ資本財でも「効き方」が違うと分かる
資本財は中身がバラバラ。
痛み方も、戻り方も同じにならない。
たとえば一括で大きい案件。
航空機や大型プラントは、受注が1件でドカンと動く。だから数字もブレやすい。
一方でバックログが厚くなりやすく、業績は長持ちしやすい。
ただし転換点の株価反応は早い。
入口が傾いた瞬間に、先に値付けが変わる。
逆に、小口で回転が速いものもある。
部品や短納期装置は、受注がすぐ売上に乗る。
そのぶん景気の温度差が、業績に出やすい。
資本財ETFをまとめて見て、当たり外れで終わる。
このズレは、だいたいここから生まれる。
先行指標が効かない罠を避けられる
入口を見れば勝てる、とは限らない。
効かなくなる場面もある。
たとえば供給制約の局面だ。
受注は取り放題で、入口が強く見える。
しかし作れない。するとコストが増え、利益率が崩れることがある。
逆にキャンセルが増える局面も危ない。
受注の数字は残る。だが実体として消える。バックログが幻になる。
だから数字は、動詞で点検する。
納期は伸びていないか。キャンセルは増えていないか。値引きは強くないか。
ここまで見れば、その受注が本当に入口として機能しているか分かる。



