ファクター指数は、株を選ぶための採点ルールだと思っていい。
指数(ルールで作った成績表)って聞くと、日経平均みたいなものを想像するかもしれない。
あれは市場全体の成績表。
一方でファクター指数は、市場全体じゃなく、特定の特徴を持つ株だけを集めて作った成績表になる。
その特定の特徴がファクター。
たとえば、こんな感じ。
- バリュー:割安っぽい株(値段のわりに中身が大きいと見なされる株)
- クオリティ:財務が強い・稼ぐ力が安定してる株(ざっくり優等生)
で、初心者が抱きやすい誤解は、たぶんこれ。
「そういう良さそうな特徴の株をルールで集めただけなら、長期では素直に報われる。市場平均より強いはず」。
この理解、見た目は自然。
指数という言葉が中立っぽいし、ルールベースだと感情が入らずブレにくそうに見える。
ただ、この理解のまま資金を入れると負け方が読めない。
負けたときに「運が悪い」「市場が変」みたいに片付けやすい。すると撤退も、買い増しも、判断がぐらつく。
本記事でやりたいのは、スマートベータ(市場平均より少し工夫した、ルールで動く運用)を褒めるとか叩くとかではない。ファクター指数のルールが、実際にどんな売買を起こすのか。どんな局面で副作用が出るのか。そこを分解する。
ファクター指数のルールは、説明書じゃない。実際に買ったり売ったりを発生させる命令になる。
読後に残したい判断力は二つ。
一つは、同じ「バリュー」「クオリティ」でも、指数が違えば中身も別物だと見抜けること。
もう一つは、儲かるかどうか以前に、「いつ・なぜ負けやすいか」を先に想定して、損益のブレを管理できること。
なぜこの仕組み/ルールが存在するのか
ファクター指数やスマートベータが出てきた理由はシンプル。
そのまま放置すると、投資のやり方が両極端になりやすいから。
片方は、市場平均にそのまま乗るやり方。
もう片方は、人が頑張って当てにいくやり方。
どっちにも弱点がある。
まず一つ目。市場平均の弱点。
市場平均はたいてい時価総額加重で作られている。
時価総額加重は、会社の規模が大きいほど比率が大きくなる方式。
規模はざっくり株価×株数で決まる。
いいところも多い。
同じ方法で再現しやすいし、コストも低い。
ただしルールは単純で、クセがある。
価格が上がった銘柄は、自然に比率が増える。
つまり人気化して高くなった銘柄ほど、どんどん持ち分が増える。
市場を丸ごと持つ、という意味では合理的。
でも集中やバブルっぽい局面だと、気づかないうちに偏りが強くなって、損益のブレが大きくなりやすい。
二つ目。アクティブ運用の弱点。
アクティブ運用は、人が銘柄を選んで市場平均に勝とうとするやり方。
当て続ける人はいる。
ただ、誰が当て続ける人かを事前に見抜くのが難しい。
手数料も高くなりがち。
なぜその売買をしたのかも、外からは分かりにくい。投資家側から見ると、当たり外れの大きいブラックボックスになりやすい。
この間を埋めたい、という発想がスマートベータ。市場平均みたいに安くて透明にしたい。
でも市場平均みたいに価格が上がったものをそのまま増やすだけにはしたくない。
そこで、良い性質と見なす条件を先に決めて、ルールにする。
そのルールを指数(ルールで作った成績表)にして、機械的に運用できる形にする。
構造の全体像を描く
全体は、登場人物を4人にすると見える。
指数を作る人、運用する人、お金を出す人、売買される株(市場)。
- 指数提供会社:ルールを作る人
- 運用会社(ETFや投信の提供者):ルール通りに売買する人
- 投資家:お金を出し入れする人
- 採用銘柄(市場):その売買の影響を受ける場所
指数提供会社がやることは、要するに採点ルール作り。
因子(ファクター)をどう定義するかを決める。
どの銘柄を入れるか、比率(ウェイト)をどうするか、いつ入れ替えるか、どのくらいの頻度で比率を戻すか(リバランス頻度)もここで決まる。
運用会社は、その指数に合わせるために実際に売買する。
指数が「この銘柄を増やせ」「この銘柄を減らせ」と言えば、その通りに動く。
投資家は、指数の名前を見て期待を作り、資金を入れたり抜いたりする。
そのお金の出入りも、運用会社の売買量を増やしたり減らしたりする。
市場側から見ると、それは機械的な注文になる。
だから短期では需給で価格が動きやすい。中長期では、その積み重ねがリターンとして見えてくることがある。
指数のルールは「説明」じゃなくて「売買の指示」になる。
指数は、ただ銘柄を並べた名簿じゃない。
採点して、入れ替えて、比率を変える。
そのたびに売買が起きる。
つまり指数の中身は、時間とともに作り替えられていく。
メカニズムの核心:何がどう動いて結果が出るか
ファクター(因子)とは何か
ファクター(因子)は、株を点数で並べ替えるための評価軸。
言い換えると、このルールで点数を付けて、上位だけ買う、下位は外す、をやるための物差し。
たとえばファクター指数は、だいたい次の手順で作る。
- 対象を決める(例:日本株の大型株1000社、みたいな母集団)
- それぞれの株を採点する(ファクターの点数を付ける)
- 点数順に並べる
- 上から何社かを採用する(例:上位200社)
- 比率も決める(均等にするのか、点数が高いほど多く持つのか)
- 定期的にやり直す(入替・リバランス)
ファクターは、この2〜4の採点と順位付けの中心にある。
バリューの点数はどう作るか(割安っぽさ)
バリューは一言でいうと、値段のわりに中身が大きい株を上に置く軸。
でも「割安」は1つの指標じゃ決めにくい。だから複数を混ぜる。
よく使われる材料はこんなもの。
- PER:利益に対して株価が高いか安いか(株価 ÷ 1株利益)
- PBR:純資産に対して株価が高いか安いか(株価 ÷ 1株純資産)
- 配当利回り:今の株価に対して配当がどれくらい出てるか
指数はたとえばこうやる。
- PERが低いほど点を高くする
- PBRが低いほど点を高くする
- 配当利回りが高いほど点を高くする
- 3つの点数を合計して、バリュー点として順位を作る
こうすると、割安っぽい株を機械的に上位にできる。
クオリティの点数はどう作るか(稼ぐ力の安定っぽさ)
クオリティは一言でいうと、無理してないのにちゃんと稼げてる会社を上に置く軸。
これも1つの指標では作れない。だから複数を混ぜる。
よく使われる材料はこんなもの。
- ROE:資本に対してどれだけ利益を出してるか(稼ぐ効率)
- 利益率:売上に対して利益がどれくらい残るか
- 利益の安定:利益が毎年ブレブレじゃないか
- 財務の安全:借金が多すぎないか(レバレッジや負債比率など)
指数はたとえばこうやる。
- ROEが高いほど点を高くする
- 利益が安定してるほど点を高くする
- 借金が多すぎる会社は点を下げる(または最初から除外する)
- それらを合計して、クオリティ点として順位を作る
これで、優等生っぽい株を上位に集められる。
なぜ、わざわざ点数化して順位をつけるのか
市場平均は、基本的に全部持つ。
で、値上がりした銘柄の比率が増える。
ファクター指数はそれをやらない。
「割安な方に寄せたい」「安定して稼ぐ方に寄せたい」と最初に決めて、順位で選別する。
寄せるには、曖昧な言葉のままじゃ無理。
割安っぽさ、安定っぽさを数字にして、並べ替えるしかない。
だから採点になる。
これがファクター指数の土台。
誤解しやすい点:同じ名前でも中身が変わる
ここが一番危ない。
バリューやクオリティは、名前が同じでも作り方で別物になる。
バリューの例
- PER中心:利益が一時的に落ちた会社を割安扱いしやすい
- PBR中心:資産が多い業種(金融・素材など)に寄りやすい
クオリティの例
- ROE重視:借金でROEを上げている会社も混ざりやすい
- 借金を避ける型:財務は硬いが、ROEがそこまで高くない会社が残りやすい
つまり、ラベルは同じでも、入ってくる銘柄が変わる。
入替で起きる売買も変わる。
負け方も変わる。
ここまでが、ファクターの正体。
スマートベータとは何か
スマートベータ(市場平均より少し工夫した、ルールで動く運用)は、時価総額加重じゃないルールで偏りを作る運用の総称。
選び方、比率の決め方、入替の仕方までルールで決めてしまう。
なぜ必要か。
市場平均の弱点である集中や過熱追随を避けたい。
アクティブ運用の弱点である不透明さも避けたい。
その間を、再現できる形で取りにいく。
ただし、誤解しやすい点がある。
スマートベータはアルファの自動製造機じゃない。
多くの場合は、別のリスクへの持ち替えになる。
だから報われる局面と、罰せられる局面がはっきり出る。
因果の流れを一行で書く
先に結論。
指数は、ルールが売買を生んで、売買のクセが成績になる。
もう少し噛み砕く。
- ルールを決める(どう採点する、誰を入れる、比率、いつ入替)
- その通りに売買が起きる(偏る、売買が増える、注文が同じ日に集中)
- その結果が出る(上げ下げの形、ズレ、コスト)
初心者が混同しやすい点
ファクター指数は良い銘柄を集めてるから強い。
ここがズレる。
実態はこう。
強さの源は「良い会社」じゃなくて、点数で選んで入れ替える仕組み。
- バリュー指数:割安点が高い株を増やす。割高になった株を減らす
- クオリティ指数:数字が悪くなった株を外す。良くなった株を入れる
指数は、未来予想の結論を持ってない。
決めた指標だけ見て、機械的に棚替えしてるだけ。
棚替えが生む副作用は3つ
1つ目:売買が増えてコストが出る
ギリギリの順位の銘柄は、出たり入ったりしやすい。
その分だけ売買が増える。コストは確実に成績を削る。
2つ目:入替日がイベントになる
入替・リバランス日に、同じ指数を追うお金が同じ方向に動く。
流動性が薄い銘柄ほど価格が振れやすく、短期の歪みが出る。
3つ目:見えにくい偏りが出る
バリューは景気敏感や金融に寄りやすい。
クオリティは大型や安定セクターに寄りやすい。
指数は中立じゃない。別の偏りを持つ。
さらに効きにくくなる条件もある
ショック相場
相場が荒れてスプレッドが広がり、流動性が落ちる。
この状態だと、機械的な売買は不利になりやすい。
混雑(クラウディング)
同じファクターに資金が集まりすぎる。
逃げるときにみんな同じ出口を使う。想定より深く下げることがある。
ルールは安定していても、売買しやすい環境がいつもあるとは限らない。



