一つだけ。 地合いを読むには、指標を大量に追うほど精度が上がるという発想。
この誤解が自然に見える理由は、はっきりしている。 市場は複雑で、ニュースも統計も多すぎる。 だから、漏れなく追えば当たると思いたくなる。 だが、その理解だと必ずどこかで破綻する。
指標が増えるほど、自分に都合がいいものだけを拾う後出しの解釈に逃げてしまう。 これでは判断が一貫しないし、なにより継続するのが難しくなる。 地合いチェックが形だけの儀式になった瞬間、相場は読めなくなる。 この記事の目的は、追う指標を絞って継続できるようにすること。 それを実戦の判断力に変える方法を書いていく。
この記事を読むと、次の二つを判断できるようになる。 相場の主役がお金を借りるコストなのか、それとも信用不安なのか。 そして、指数(ルールで作った成績表)の見た目に騙される前に、中身の劣化を検知することだ。
なぜこの仕組みが存在するのか
地合いチェックが必要になる根本的な原因は、市場が一つの価格で動いていないから。 株価指数はあくまで結果であって、原因ではない。 指数は上がることも下がることもあるけれど、その背後には三種類の制約が走っている。
一つは割引率。将来の利益を今の価値に直すレート。 二つめは資金調達。信用の蛇口が開いているか閉じているか。 三つめは参加。上げが広い合意か、一部の偏りか。
これらを見ずに指数だけを眺めていると、判断を見誤る。 見た目が同じ上昇でも、中身が違うからだ。
市場が解こうとしているのは、情報の圧縮という問題。 膨大な価格と取引を、少数の観測点に圧縮して、意思決定を可能にする。 そのために指標が使われる。 指標は飾りではない。 意思決定を継続させるための圧縮装置といえる。
構造の全体像を描く
登場人物は、四者。 投資家は、上がるなら買い、下がるなら売りで済ませたい。 しかし市場は、お金を借りるコストと信用環境の変化で、同じ値動きの意味を変えてくる。
運用会社や長期資金は、リスク(想定よりブレる可能性)を取りたいが、逃げる速度は遅い。 レバレッジを使う参加者は、信用の蛇口が閉まるとすぐに持ち高を落とす。 マーケットメイカーは取引の仲介をするが、ボラティリティ(値動きの大きさ)が悪化すると防衛に回る。
どこで価格が動くかということと、どこで中身が崩れるかは別物。 週次のチェックは、この二つを混同しないために行う。
メカニズムの核心:何がどう動いて結果が出るか
最小セットは、次の3指標で足りる。 役割が被らないからだ。
米10年実質金利(割引率) :物価の影響を除いた、本当の金利。
将来手に入るキャッシュの価値を決める指標。 株価は「利益と倍率」で決まるが、この倍率(バリュエーション、今の値段が妥当か測る指標)は実質金利に左右される。 実質金利が上がる局面では、将来の利益に期待する成長株などが特に傷む。 指数が動かなくても、中身の入れ替えが進んでいることがある。 金利上昇が株安に直結するとは限らない。 成長への期待が強ければ株は耐えるし、金融の引き締まりが原因なら後から効いてくる。
ハイイールド・スプレッド(信用の蛇口) :返済能力が低い企業の金利が、国債よりどれだけ高いか。
これは資金調達の難しさと、リスクを許容できる度合いを映している。 数値が広がるのは、貸したくないという市場の意思表示。 これが起きると、お金を借りて投資する層が強制的に売らされる。 株の下げが一時的な調整なのか、それとも信用リスク(お金が戻らなくなる可能性)によるイベントなのか。 それを切り分ける境界線になる。 株が下がったからスプレッドが動くのではなく、スプレッドが先に荒れるパターンに注意したい。
新高値・新安値(NH/NL、内部体温):新高値を更新した数と、新安値を更新した数の差。
指数の裏側で、参加者が増えているか、弱い銘柄が増えているかを測る。 指数は時として、一部の巨大な銘柄だけで引っ張られることがある。 だが、相場の崩れはいつも中身から始まる。 新安値が増えているのに指数だけが高いときは、逃げ遅れる確率が高まっているサイン。 週次では数値そのものより、増え方の勢いを見たほうがいい。 単発の悪化より、悪化が続く状態が危険だからだ。
実際の市場シーンで考える
金曜の雇用統計が強く、インフレが再燃しそうな場面を想定してみる。
市場は、お金を借りるコストが高いまま続くと読む。 まず、実質金利が跳ねる。 ここで起きるのは、株全体の崩壊ではない。 成長株が売られる一方で、エネルギーなどのバリュー株が耐える。 セクター回転(買われる業種が入れ替わること)が起きるだけで、指数は粘ることもある。
だが、同じ週の後半にハイイールド・スプレッドが静かなままなら、それは主に割引率のショック。 恐怖の正体は信用不安ではないから、ポジションの調整で済む可能性が高い。
一方で、スプレッドが広がり始め、同時にNH/NLで新安値が増え続けるなら話は別。 表面上の指数が耐えていても、中では逃げ足の速い主体が先に降りている。 ここで、指数が大丈夫だからと買い向かうのは、典型的な誤判断になる。
見るべきはニュースの物語ではなく、三つの制約がどう動いたか。 実質金利の跳ねが続くか、信用が追随したか、内部の劣化が進んだか。 この三点だけでいい。
この理解がもたらす判断力
この3指標を週次で固定すると、材料の洪水から解放される。 代わりに、今の相場の主役を切り分ける癖がつく。
実質金利だけが動いているなら、金利主導の回転戦。 信用スプレッドが拡大しているなら、主役は信用不安。 NH/NLだけが悪化しているなら、上昇の賞味期限は近い。
やることはシンプルだ。 週末にこの3つを並べて、どの制約が効いているかを確認する。 最初の一歩は、先週の数値からどちらに動いたか、方向を記録することから始めるといい。
地合いチェックの最小セット
市場のノイズを捨て、3つの「制約」だけを見る
1. 誤解と真実
初心者が陥りがちな最大の罠。それは「大量の指標を見れば精度が上がる」という誤解です。 指標が増えるほど、人は自分に都合の良いデータだけをつまみ食いし、判断がブレ始めます。
結論:
見るべきは「指数(結果)」ではなく、その裏にある3つの制約(原因)だけです。 これにより、相場の主役が「金利」なのか「信用」なのかを切り分けることができます。
2. 3つの羅針盤
なぜこの3つなのか?それは役割が被らないからです。カードをクリックして、それぞれの「本質」と「よくある誤解」を確認してください。
① 米10年実質金利
割引率名目金利 – 期待インフレ率
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ここだけ押さえる:
「物価の影響を除いた、本当の金利」。バリュエーション(株価の倍率)を支配する。
② HYスプレッド
信用の蛇口ハイイールド債利回り – 国債利回り
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ここだけ押さえる:
「貸したくない」という市場の意思表示。これが広がると強制売りが起きる。
③ 新高値・新安値
内部体温新高値銘柄数 – 新安値銘柄数
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ここだけ押さえる:
「参加の広さ」。指数が高値でも、新安値が増えているなら「中身の崩れ」が始まっている。
⚡ 市場シナリオ・シミュレーター
市場の「ある場面」を選択し、3つの指標がどう動くか(シグナル)を確認してください。 この因果関係を体感することが、実戦への第一歩です。
① 実質金利 (割引率)
Stable② HYスプレッド (信用)
Stable③ 内部体温 (NH – NL)
Healthy📈 局面判定:適温相場
すべての指標が落ち着いています。金利は安定、信用スプレッドは低位、新高値銘柄も順調に出ています。 これは「保有継続」のサインです。
ACTION: 順張り継続 / セクター分散
3. 実戦ケーススタディ:強い雇用統計のあと
状況:金曜日に「強すぎる雇用統計」が出た
市場は「インフレ再燃」と「利下げ遠のく」を連想します。ここでニュースの見出しだけを見て「株は売りだ!」と反応するのは早計です。まずは3つの指標をチェックします。
今週末から始める「3点チェック」
材料の洪水から解放されましょう。週末にこの3つを並べて、先週から「どちらに動いたか」を確認するだけで、相場の主役が見えてきます。



