情報技術(IT)セクターはなぜ金利で崩れるのか|成長期待と利益率で強弱を読む

初心者がハマりやすい勘違いは、だいたいこれ。

テックは成長産業。
売上が伸びているなら強い。金利はおまけ。

未来っぽいサービスで、数字も伸びている。
だから株価も上がる。ここまでは直感として合っている。

しかし相場では、ITが大きく崩れるときほど「業績が悪くなる前」に起きやすい。
なぜなら、先に動くのは金利(お金を借りるコスト)だからだ。
そして金利が動くと、成長株に付く値札が変わる。

ここがポイント。
業績が良くても、値札が下がれば株価は下がる。

この「値札」は、評価倍率(PERのように何倍まで払うか)と考えればいい。
金利が上がると、この倍率は縮みやすい。
そのため、テックは先に崩れやすくなる。

この記事でやりたいのは、ITの上げ下げを2つに分けて読むこと。

① 金利が動いて、倍率が動いたのか

まず確認するのはここ。
金利が上がる(または上がりそう)と、倍率が先に縮む。
つまり、利益が伸びていても「高い値札が許されにくくなる」動きだ。

② 会社の利益率が崩れて、利益の見通しが動いたのか

一方で、こちらは業績側の問題。
利益率の悪化や競争の激化によって、将来の稼ぐ力そのものが見直される。

ITが動いた日は、まずこの順番で切り分ける。
①倍率(=金利) → ②利益見通し(=業績)。

この順で整理すれば、相場の動きはかなりクリアに見える。

なぜこの仕組みが存在するのか

株価は「未来の利益」に値段がつく

株価は、未来に稼ぐ利益を先に値段にしたもの。
ただし、未来の1ドルと今日の1ドルは同じ価値にならない。

今日の1ドルは今すぐ使える。
一方で未来の1ドルは、受け取るまで待つ必要がある。
だから市場は、未来のお金を「いまの価値」に引き直して考える。

割引率と金利が、物差しになる

この引き直しに使うのが割引率。
割引率の基準に近いものが、金利(お金を借りるコスト)だと思えばいい。

金利がなければ比較がやりにくい。
すぐ稼ぐ会社と、何年も先に稼ぐ会社を、同じ物差しで測れなくなる。

放置すると、「いつもらえるか」を無視して「いくらもらえるか」だけで値段が付きやすい。
その結果、お金の流れ(資金配分)が変な方向に寄る。

用語整理

割引率

未来のお金を、いまの価値に直すためのレート。
言い換えると、未来の利益を「いまいくらで買うか」を決める道具。

ここで誤解されやすいのが、「借金が多い会社だけが金利に弱い」という見方。
借入コストも効く。
ただし株価に効く本命は、評価倍率が縮むことのほうが大きい。

ディレーティングは、ざっくり言えば「倍率が下がる動き」。

成長期待

将来の利益がどれくらいのペースで増えるか、という市場の見立て。
ITは今期よりも、数年先の利益が重く見られやすい。

夢とか人気だけで決まるわけじゃない。
受注、単価、解約率、広告単価、半導体の在庫サイクルみたいな数字に引っ張られる。
つまり、確度つきの予想が束になったものが「成長期待」になる。

利益率

売上のうち、どれだけ利益や現金が残るかの比率。
見る場所は、粗利率・営業利益率・FCFマージンあたり。

株でよく出る指標も押さえる

PER(株価収益率)

株価が1株利益(EPS)の何倍か、という倍率。
同じ利益でも、金利が変わると「何倍まで払えるか」が変わる。

「PERが高い=危険」で止めると外しやすい。
高いPERは、成長期待の裏返しでもある。
ただし金利が上がる局面では、そのPERが先に潰れやすい。

フリーキャッシュフロー(FCF)

事業で稼いだ現金から、設備投資などを引いたあとに残る現金。
株主に回せる余力の現金、と考えるとわかりやすい。

ITは会計上の利益が伸びても、投資で現金が残らない時期がある。
だから「黒字なら現金も増える」はズレることがある。

利益と現金は別物。
この前提で見るほうが安全。

構造の全体像を描く

まず登場人物をそろえる

  • 中央銀行:政策金利を動かす
  • 債券市場:長期金利や実質金利を決める場所
  • 上場テック企業:利益率と成長の見通し(ガイダンス=会社が出す今後の数字の予想)を出す
  • 株式投資家:その情報をもとに、いくら払うかを決める

流れは「倍率 → 利益」の順

① 第一波:金利が動いて、倍率が動く

最初に動くのは金利。
動く場所は債券市場。

長期金利や実質金利が上がると、株の世界で使う割引率(未来のお金を今に直すレート)も上がる。
すると、ITのPER(利益の何倍まで払うか)が下がりやすい。

これが第一波。
まだ業績が変わっていなくても、株価は先に動く。

② 第二波:決算で、利益の見通しが動く

次に企業が決算を出す。
あわせてガイダンスも出す。

そこで成長期待と利益率が更新される。
EPSやFCFの見通しが上がるか下がるかが、ここで決まる。

これが第二波。
今度は倍率ではなく、利益そのものが動く。

ここだけ押さえる

ITの株価は、ざっくりこれでできている。

利益 × 倍率

そして順番はこう。

  • 最初に動くのは 倍率
  • あとから動くのが 利益

この2つが重なって見えるから、「テックは成長だから上がる/下がる」でまとめると原因を外しやすい。
大事なのは、何が動いたのか。

倍率か、利益か。
まずそこを分けて考える。

メカニズムの核心:何がどう動いて結果が出るか

話を一度、かなり単純にする。

株価はざっくりこれでできている。

利益 × 倍率(PERのような「何倍まで払うか」)

ITが崩れるときは、この2つのどちらが崩れたのかを分けて見る。

原因は大きく2つ。

  • 実質金利が動いた
  • 成長期待が動いた

実質金利が動くと、なぜ揺れるのか

実質金利は「名目金利 − 期待インフレ」。
ざっくり言えば、リスクのない利回りの実力値のようなもの。

ITは利益のピークが先になりやすい。
そのため、割引率(未来を今に直すレート)が変わると、株価が揺れやすい。

誤解しやすいのは、政策金利だけ見ればいいという考え方。
しかし実際に倍率へ効きやすいのは、短期金利そのものより「長期の実質金利がどこに落ち着くか」。

途中で動くのは、この2つ

① 評価倍率(PERやEV/FCF)

金利が上がる。
すると同じ利益でも、今払える値段が下がる。
結果として倍率が縮む。これがディレーティング。

まだ業績が変わっていなくても、株価は下がる。
これが第一波。

② 利益率

一方で、売上が伸びていても安心はできない。
単価が下がる。人件費が増える。在庫の波で採算が崩れる。

こうした変化で利益率が落ちると、EPSやFCFの見通しが下がる。
今度は利益そのものが動く。

これが第二波。

順番がズレるから、混乱する

初心者がやりがちなのは、値動きを全部「業績」で説明すること。
しかし実際は、順番がズレやすい。

  • まず金利が動き、倍率が動く(第一波)
  • あとから利益率が動き、利益が動く(第二波)

同じ下落でも、原因が違えば対処も違う。

  • 倍率主導の下げ:金利が落ち着かないと戻りにくい
  • 利益主導の下げ:需要やコスト構造が改善しないと戻りにくい

例外もある

インフレ指標が荒れ、金利が日替わりで暴れる局面では、決算より金利が主役になりやすい。
一方で金利が横ばいのときに決算で利益率が崩れると、ITでも金利の影響は一時的に薄れる。

だからこそ大事なのは一つ。

何が動いたのか。
倍率か、利益か。

まずそこを分けて考える。

実際の市場シーンで考える:2022年の急速利上げ局面

2022年に何が起きていたか

インフレが収まらず、FRBが急いで利上げした時期。

まず流れを時系列で並べる。

  • インフレ指標が強い
  • 中央銀行がタカ派(引き締め強め)になる
  • 債券市場が「金利は当分高いまま」を織り込む
  • 国債が売られて、長期金利が上がる

第一波:先に起きたのは「資金繰り悪化」ではなく「割引率上昇」

ここで最初に起きるのは、テック企業の資金繰りが急に苦しくなることではない。
先に起きるのは、割引率が上がること。

つまり、何年も先の利益の価値が目減りする。
その結果、投資家は同じ利益見通しでも高い倍率(PER)を払わなくなる。

  • PERが縮む
  • ITが先に下げる

これが第一波。

第二波:決算で「利益の見通し」が崩れてくる

次に決算期が来る。
需要はまだ強そうに見えても、賃金上昇で人件費が増える。
さらに広告やガジェット需要が鈍ってくる。

すると「利益率が落ちそうだ」が見え始める。
ここで第二波。

倍率が落ちたあとに、利益の見通し(EPSやFCF)も下方修正される。
今度は、倍率ではなく利益が動く。

だから「順番」を外すとミスりやすい

初心者は「結局、業績が悪かったから下がった」とまとめがち。
しかし順番が大事。

  • 最初の下げ:金利で倍率が落ちたのが主因
  • 後半の下げ:利益率と成長期待が削られたのが主因

この順番を外すと、次の局面でミスりやすい。
たとえば金利が落ち着いたあとも、「テックは危ない」で止めてしまう。
その結果、反発局面を取り逃がして、やれやれ…となる。

この理解がもたらす判断力

まず下落の原因を2択で切る

ITが下げたら、最初にこれを決める。

  • 倍率(PER)が下がっただけなのか
  • 利益の見通し(EPS/FCF)が下がったのか

見分け方はシンプル。

長期の実質金利が跳ねた日なら、まず倍率主導を疑う。
このときは業績が無事でも、PERが縮んで株価が落ちる。

逆に、金利があまり動いていないのに決算後に落ちたなら。
利益率とガイダンス主導を疑う。
つまり、利益の見通しが削られた下げになりやすい。

ITの中身は「利益率の崩れ方」で分ける

ITを一括りにすると雑になる。
同じ下げでも、痛み方が違う。

  • ソフトウェアのサブスク:粗利は高い。だが販管費で利益率がぶれやすい
  • 半導体:在庫の波で利益率が振れやすい
  • プラットフォーム:広告単価や規制で利益率が振れやすい

ここを見ておくと、IT全体が下げた日に「どれが弱い下げか」が見えてくる。
当たり外れが運になりにくい。

金利局面の買いは、条件を足す

「金利が下がったから買い」だけだと雑になる。
倍率が戻るには、追加の材料が要る。

  • 実質金利が下がっている
  • 成長期待が上がっている(見通しが上方修正されている)
  • 利益率が改善している

どれが起きているかを確認してから入る。
それだけで、買いの精度はかなり変わる。

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