ディフェンシブと金利敏感は別の話
公益(Utilities)と不動産(REIT)はディフェンシブだ。
だから景気が悪いときに買えば下げにくい、という考え方がある。
たしかに電気や水、住む場所は不況でも消えない。
需要は安定して見えるし、配当も出る。守りの定番に見えるのも自然だ。
ただし相場では、この見立てがあっさり崩れる。
景気が悪くなっていないのに、公益とREITがまとめて下がる日がある。
そして、このときの原因は需要の減少ではないことが多い。
金利が動くと、株の値札の付け方が変わる。
つまり、割引率が変わって評価が揺れる。
その結果、ディフェンシブかどうかは関係なく売られる。
ここが落とし穴。
ここでやりたいのは、論点の切り分け。
ディフェンシブ(景気に強いか)と、金利敏感(金利で値札が変わりやすいか)を別物として扱う。
そうすれば、公益・不動産の下落を「景気」ではなく「金利」で説明できるようになる。
ゴールはシンプル。
公益・不動産が動いたら、まず「金利のせい」か「中身(業績や固有要因)のせい」かを分ける。
そのうえで、毎回見る数字を固定する。
判断の手順をルーティン化するためだ。
ディフェンシブと金利敏感は別の話
なぜこの仕組みが存在するのか
市場は、性格の違う資産を同じ基準で比べないと回らない。
成長株、配当株、不動産、債券。入ってくるお金の形はバラバラ。
それでも投資家は毎日、「どれを持つのが得か」を選び続ける。
だから共通の物差しが必要になる。そこで金利が登場する。
金利は「将来のお金」を今日に直す物差し
金利は、お金を寝かせるコストみたいなもの。
将来もらえる1万円を、今日の価値に直すといくらか。これを決める基準になる。
言い換えると、金利は「待つことの値段」でもある。
待つコストが上がれば、将来の1万円は目減りして見える。
逆に、待つコストが下がれば、将来の1万円は価値が高く見える。
公益・不動産が金利で動くのは「仕組み」の問題
だから公益・不動産が金利で動くのは、気分の問題じゃない。
市場が資産を比べ続けるために、金利で値札を付け直す仕組みがある。
その仕組みの中で、公益と不動産は「金利の変化が当たりやすい体質」になりやすい。
ディフェンシブに見えることと、金利で揺れやすいことは、別の話。
公益・REITはなぜ金利で下がる?メカニズムを具体例で解説
① 金利上昇で「株価の値札(バリュエーション)」が下がる理由
たとえば、あるREITが毎年100の利益を安定して出すとする。
この100がずっと続く前提だ。
金利が1%の世界なら、将来の100はあまり値引きされない。
そのため、高い株価がつきやすい。
しかし金利が4%に上がると話は変わる。
将来の100は、より強く値引きされる。
その結果、同じ利益でも「今の価値」は小さくなる。
利益は変わっていない。
それでも株価は下がる。
これが「ディフェンシブでも金利で下がる」理由の一つ。
業績が安定していても、バリュエーションが崩れれば株価は下がる。
② REITは不動産価格(キャップレート)でも下がる
REITが金利に弱い理由は、株価だけではない。
中身の不動産価格も金利で動く。
不動産価格は、ざっくり次の式で決まる。
年間家賃100 ÷ 5% = 物件価格2000
この5%がキャップレート(不動産利回り)だ。
ここで金利が上昇し、キャップレートが6%になるとする。
年間家賃100 ÷ 6% = 1666
家賃は同じなのに、物件価格は2000 → 1666に下がる。
つまり金利上昇局面では、
- 株の評価が下がる
- 物件価格が下がる
- NAV(純資産価値)が下がる
という三重の圧力がかかる。
REITが「金利敏感」と呼ばれるのは、この構造があるからだ。
③ 金利上昇で借金コストが増え、利益が削られる
さらに重要なのが資金調達コスト。
たとえば、REITが金利1%で1000借りていたとする。
利息は年間10。
これを4%で借り換えると、利息は年間40になる。
利益が100なら、30が追加で消える計算だ。
業績が急に悪化したわけではない。
それでも金利上昇だけで利益は削られる。
だからREITは、
- 値札
- 不動産価格
- 借金コスト
の三方向から効きやすい。
④ 公益(Utilities)も金利上昇で下がる理由
公益株も基本構造は同じだ。
発電所や送電網など、大規模な設備投資が必要。
そのため負債が多くなりやすい。
金利1%で調達していた資金が4%になる。
当然、資本コストは上がる。
本来は料金に転嫁したい。
しかし規制産業なので、すぐに値上げできないことが多い。
この「転嫁できない期間」で利益が圧迫される。
だから景気が悪くなくても、金利上昇だけで下がる。
⑤ 金利低下でも上がらないケース(信用不安)
逆に、金利が下がったのにREITが上がらない場面もある。
典型は信用不安の局面。
国債金利は下がる。
しかしクレジットスプレッドは広がる。
その結果、借金の条件はむしろ悪くなる。
このときは「金利低下=追い風」にならない。
金利の水準だけでなく、中身まで見る必要がある。
ディフェンシブでも金利には弱い
最後に整理する。
- 需要が安定していること=業績の安定
- 金利に強いこと=値札と借金の問題
これは別問題。
公益・REITは業績は安定しやすい。
しかし将来利益の比重が高く、負債も多い。
だから金利が動くと、値札と資金調達の両面から揺さぶられる。
ここが腹落ちすれば、「ディフェンシブなのに下がる」は説明できる。
公益・REITが金利で動く市場シーン
ある日、長期金利が急に上がったら何が起きるか
場面設定はこれ。
ある日、長期金利が急に上がった。
理由はインフレ懸念でもいいし、中央銀行の強気発言でもいい。
債券が売られて、10年金利が跳ねる。そういう日だ。
すると投資家は、反射的に「比較」を始める。
短期国債やMMFでそこそこ利回りが出るなら、わざわざ公益やREITの配当を取りに行く意味はあるのか。
この比較が一気に進む。
ここから起きることには順番がある。
① まず「売り」が出る(需給が変わる)
最初に動くのは理屈より需給。
配当目的で公益・REITを持っていた人が売る。
理由は単純で、国債側の利回りが上がって相対的に魅力が薄れたからだ。
ETFでも同じことが起きる。
資金が抜けると、ETFは中身を売る。
これが売りを増幅して、下げを速くする。
② 次に「値札」が書き換わる(評価が変わる)
売りが出るだけでは終わらない。
理屈でも値札が下がる。
REITはこうなる。
金利上昇
→ キャップレートも上がりやすい
→ 物件の値段が下がる連想が走る
→ NAV(資産価値)が下向きに見られる
公益はこうなる。
金利上昇
→ 借金のコストが上がる
→ でも料金にすぐ反映できない(規制でタイムラグ)
→ 利益見積もりが慎重になる
どっちも「電気や家賃の需要が急に減った」話ではない。
中身の需要ではなく、金利で値札が動いている。
③ ここで初心者がつまずく
この局面でよくある勘違いがこれ。
「ディフェンシブが売られてる。何か悪材料が出たのか?」
でも実際は、悪材料というよりこういう話が多い。
利益が崩れたというより、割引率が上がって値札が下がっているだけ。
だから決算を見ても答えが出ないことがある。
④ じゃあ何を見ればいいか
こういう日は、決算より先に見るものがある。
- 長期金利(できれば実質金利)
- クレジットスプレッド(信用不安の上乗せ)
ここを見ずに「守りのはずだ」と買い向かうと危ない。
なぜ下がっているのか分からないまま、含み損を抱えやすい。
公益・REITの判断力を高める:金利で動く日を見抜く
先に景気の話をしない。ここがポイントになる。
① まず原因を2択にする
公益・REITが下がったら、理由はだいたい次の2つに分けられる。
- 利益が悪くなりそう(中身の問題)
- 金利で値札が下がっただけ(割引率の問題)
最初にこの2択にするだけで、思考が散らばらない。
ニュースを追い回す前に、まず構造で分ける。
② 景気が平気なら、まず金利を見る
公益・REITが崩れている。
それなのに景気指標は崩れていない。
このとき最初に疑うのは需要ではない。
金利だ。
逆に、金利が下がっているのに弱いなら話は別。
その場合は、信用不安の上乗せ(クレジットスプレッド)や個別要因を疑う。
たとえばREITなら、
- 借換が厳しい
- 増資が通りにくい
- 物件評価が下がる
といった問題が出ていないかを見る。
公益なら、
- 規制で料金転嫁が遅れる
- 投資負担が重い
といった論点がないかを確認する。
この順番で考えるだけで、「ディフェンシブなのに下がる謎」はほぼ消える。
③ 同じセクターでも痛みの速さは違う
次は銘柄選別だ。
見る軸が変わる。
REITで金利に弱い典型はこうだ。
- 借換までの期間が短い(すぐ高金利を食らう)
- 変動金利が多い(上がった瞬間に効く)
- 増資頼み(資金調達が詰まりやすい)
一方で、相殺しやすいタイプもある。
- 賃料改定が早い契約(インフレで家賃を上げやすい)
- 価格転嫁しやすい物件タイプ(需要が強い立地・用途)
公益でも差が出る。
- 設備投資が重い(借金が増えやすい)
- 規制回収のタイムラグが長い(コスト増をすぐ料金に乗せにくい)
- 許容ROEの見直し余地があるか(将来の回収力の差)
つまり、比べる軸はこう変わる。
配当利回りが高いかどうかではない。
資本コストが上がっても耐えられるかどうかだ。
④ 売買は「イベント」で組める
公益・REITは決算だけで動く銘柄ではない。
むしろ強く反応しやすいのは、値付けが更新されるイベントだ。
- 長期金利の急変
- 実質金利の跳ね
- クレジットスプレッドの拡大
ニュースを追いかけるより、見る数字を固定する。
そして、その変化に反応する方がブレにくい。
最後に押さえること
公益・REITは「景気の株」になる日もある。
しかし多くの場合、「金利の株」になりやすい日がある。
まずそこを判定する。
景気か、金利か。
この順番を守るだけで、判断は一段クリアになる。



