特定口座(源泉徴収あり)を使っていれば確定申告は不要。多くのETF投資家はこの認識で止まっている。しかし実際には、「申告しなくていい」と「申告しない方がいい」は別の話であり、申告することで税金が戻ってくるケースが少なくない。
この記事では、40代のETF投資家が直面しやすい5つのケースについて、確定申告が必要か・不要か・した方が得かを整理する。
特定口座(源泉徴収あり)なら申告「義務」はない。しかし「損益通算」「外国税額控除」「医療費控除との組み合わせ」など、申告した方が得なケースは意外と多い。40代は収入・控除の構造が複雑になる時期だからこそ、判断の軸を持っておきたい。
ケース① 特定口座(源泉徴収あり)で利益が出た → 原則不要
最もシンプルなケース。証券会社が利益に対して約20%を自動で源泉徴収してくれるため、確定申告は不要だ。年末に届く「特定口座年間取引報告書」に損益が記載されるが、これを税務署に提出する義務はない。
ただし注意点がある。確定申告で本人の合計所得金額が上がると、配偶者控除の額が変わったり、受けられなくなったりすることがある。また、扶養に入っている人が自分で申告して合計所得金額が上がると、扶養控除の要件(扶養親族側の合計所得金額)を外れることがある。利益が出ているだけなら、あえて申告しない方が有利なケースもある。
ケース② 年間で損失が出た → 繰越控除の申告を検討
課税口座で生じた上場株式等の譲渡損失については、確定申告をすることで「繰越控除」が使える。損失を翌年以降3年間繰り越し、将来の上場株式等の譲渡益や、申告分離課税を選んだ配当所得等と相殺できる。NISA口座内の譲渡損失や、相対取引などにより生じた譲渡損失は対象にならない。
たとえば2026年に100万円の損失が出て、2027年に80万円の利益が出た場合、繰越控除を使えば2027年の課税対象はゼロになる。残りの20万円の損失は2028年に繰り越せる。
繰越控除を使うための条件は、損失が出た年から毎年連続して確定申告をすること。取引のない年も含めて、必要書類を付けた申告書を毎年出す必要がある。損失が出た年は「申告しても税金が戻らないから面倒」と思いがちだが、将来に相殺できる所得が生じる可能性があるなら、申告を検討したい。
ケース③ 複数の証券会社で取引している → 申告した方が得な場合あり
SBI証券で利益が出て、楽天証券で損失が出た、というようなケース。特定口座(源泉徴収あり)の場合、各証券会社は自社の口座内でしか損益通算しない。証券会社をまたいだ損益通算は、確定申告をしなければ行われない。
A証券で50万円の利益(源泉徴収約10万円)、B証券で50万円の損失が出ている場合、確定申告すればA証券で引かれた約10万円が全額還付される。これを知らずに放置している人は少なくない。
40代で複数の証券口座を持っている場合は、年末に全口座の損益を確認し、通算で税金が戻る可能性がないかチェックする習慣をつけたい。
ケース④ 米国ETFの分配金を受け取っている → 外国税額控除で申告検討
米国ETF(VOO、VTI、QQQなど)の分配金には、内容や条約の適用状況に応じて米国で源泉税が課されることがあり、さらに日本で約20%の税金がかかる。いわゆる二重課税だ。日米租税条約は、日本の居住者が受益者である一般の場合について、米国側が課すことができる税率の上限を配当の額の十パーセントと定めている。合衆国の規制投資会社に該当するETFが支払う配当にも、この上限が適用される。
確定申告で「外国税額控除」を申請すると、米国で支払った税金の一定額が日本の税金から控除される。控除できる額は、対象となる外国所得税額と各控除限度額などによって変わり、全額を控除できるとは限らない。
ただし重要な注意点がある。NISA口座で受け取った米国ETFの分配金は、外国税額控除の対象外だ。NISAでは日本側の税金が非課税のため、控除する対象がない。つまりNISAで米国ETFを持っている場合、その米国側の源泉税は日本の外国税額控除では控除できない。
申告を検討する金額の目安は、制度としては決まっていない。実際に控除できる額は、対象となる外国所得税額と、所得税・復興特別所得税・地方税それぞれの控除限度額などによって決まる。分配金の額だけでは判断できないので、試算してから決めたい。
ケース⑤ 医療費控除・ふるさと納税と組み合わせる → 所得控除への影響も確認
40代は医療費控除やふるさと納税の確定申告をすることが増える時期だ。このとき注意が必要なのは、確定申告をすると特定口座の利益が合計所得金額に含まれるケースがあること。
特定口座(源泉徴収あり)の利益は、確定申告しなければ合計所得金額に含まれない。しかし、損益通算や外国税額控除のために申告すると、その利益が合計所得金額に算入される。
合計所得金額が上がると、配偶者控除の額や適用の可否に影響する可能性がある。外国税額控除で控除できる額と、所得控除への影響を見比べて決めたい。
申告するかどうかは、ETFの損益だけでなく「申告した場合の合計所得金額」と「それが配偶者控除などの所得控除に与える影響」をあわせて確認する必要がある。判断が難しい場合は、税理士や税務署の無料相談を利用することを勧める。
まとめ ― 「申告不要=申告しない方がいい」ではない
特定口座(源泉徴収あり)を使っていれば、確定申告の「義務」はない。しかし、損失の繰り越し、口座間の損益通算、外国税額控除など、申告することで税金が戻るケースは多い。
一方で、申告によって合計所得金額が上がり、配偶者控除などの所得控除で不利になることもある。40代は収入も控除も複雑になる時期だからこそ、「申告した場合としない場合で、トータルでどちらが有利か」を考える視点が必要だ。
年末に全口座の損益を確認し、申告のメリット・デメリットを比較する。この習慣を持つだけで、税金で損をする確率は大幅に下がる。
データの出典
本記事の課税・確定申告と、米国ETFの分配金にかかる米国側の税率に関する記載は、以下の一次情報に基づく。取得日は2026年9月14日。
- 財務省 日米租税条約(原条約と改正議定書を統合した条文・和文) … 配当に対して源泉地国が課すことができる税率の上限を、受益者が他方の締約国の居住者である一般の場合について配当の額の十パーセントと定めていること(第十条2)、および合衆国の規制投資会社が支払う配当にもこの上限が適用されること(第十条4)。なおこの文書は原条約と改正議定書を統合して条文の形式で表示したもので、文書自身が「この文書は法的根拠となるものではない」と断っている
- 国税庁 タックスアンサー No.1240「居住者に係る外国税額控除」(令和8年4月1日現在法令等) … 外国所得税を納付することとなる場合に、控除限度額を限度としてその年分の所得税額から差し引けること、控除限度額がその年分の所得税額と調整国外所得金額・所得総額の比から計算されること、および外国所得税額が所得税の控除限度額を超える場合に復興特別所得税の控除限度額・地方税の控除限度額や繰越しの扱いが定められていること(全額を控除できるとは限らない)
- 国税庁 タックスアンサー No.1476「特定口座制度」(令和8年4月1日現在法令等) … 源泉徴収口座(特定口座で源泉徴収を選んだもの)内の上場株式等の譲渡による所得を申告不要とすることができること、および他の口座の損益と相殺する場合や繰越控除を受ける場合は確定申告が必要であること
- 国税庁 タックスアンサー No.1474「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」(令和8年4月1日現在法令等) … 金融商品取引業者等を通じて譲渡したこと等により生じた上場株式等の譲渡損失を、確定申告により、上場株式等に係る配当所得等(配当所得は申告分離課税を選択したものに限る)と損益通算できること、控除しきれない損失を翌年以後3年間にわたり確定申告により繰越控除できること、および非課税口座(NISA)内の譲渡損失は対象外であること
- 国税庁 タックスアンサー No.1191「配偶者控除」(令和8年4月1日現在法令等) … 配偶者控除の額が、控除を受ける納税者本人の合計所得金額によって変わること(900万円以下・900万円超950万円以下・950万円超1,000万円以下)、および本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は配偶者控除を受けられないこと
- 国税庁 タックスアンサー No.1180「扶養控除」(令和8年4月1日現在法令等) … 扶養親族に該当するかどうかが4つの要件で判定され、そのうち所得の要件は、納税者本人ではなくその扶養親族本人の年間の合計所得金額で判定されること



