ETFは「株と同じ」だという誤解
ETFは株と同じように、取引所でリアルタイムに売買できる。
だから構造も株と同じ、と考えられがち。
でも、この理解は決定的に足りない。
株式は、企業が発行した株数が基本的に固定される。
投資家同士が、その限られた株を売り買いしているだけ。
一方ETFは、発行済の口数そのものが日々増減する。
見た目は株でも、中身はまったく別物。
本記事の目的は、この二重構造を論理的にほどくこと。
読み終えたとき、次を判断できるようになる。
- ETF価格がNAV(純資産価値=中身の時価)と乖離したとき、何が起きているのか
- 急落時にディスカウント(ETFの取引価格がNAVより安い状態)が広がっても、慌てるべきかどうか
- ETFフローが価格にどう影響するのか
表面の値動きじゃなく、構造を読む視点を取りにいく。
なぜこの仕組みが存在するのか
ETF以前、投資信託は一日一回、基準価額でしか売買できなかった。
途中で売りたくても売れない。値段も一日遅れで確定する。
一方で、株みたいにリアルタイムで売買できる商品は、指数連動の分散投資を手軽にやりにくかった。
つまり問題は2つあった。
- 分散投資の商品は、流動性が低い(売り買いしにくい)
- リアルタイムで売れる商品は、分散が弱い
ETFは、この矛盾を潰すために作られた。
ただし問題もある。
ETFが単なる「株っぽい売買商品」なら、価格は需給だけで簡単に歪む。
本来1万円の価値しかない中身でも、買いが殺到すれば1万2千円になり得る。
それを放置したら、指数連動商品としての信頼が崩れる。
だから必要になった。
価格を本質価値に引き戻す装置。
これが一次市場の存在理由。
構造の全体像:三者の役割
ETFには、主に三つの主体がいる。
投資家
投資家は取引所でETFを売買する。
ここが二次市場。
投資家同士で既存の口数を売買しているだけなので、原則として発行済口数は変わらない。
二次市場は席の移動。
運用会社
ETFを組成し、指数に沿って現物資産を保有する主体。
中身を管理して、NAV(純資産価値=中身の時価)を算出する。
ただ、運用会社は日々の需給に直接介入しない。
認定参加者(AP)
ここが核心。
AP(Authorized Participant)は、ETFの設定・解約ができる特別な金融機関。
運用会社と直接やり取りできるのはAPだけ。
APは大量単位(creation unit)で、ETFを新規発行(設定)したり、償還(解約)したりする。
この取引が行われる場が一次市場。
二次市場が席の移動なら、一次市場は座席数そのものの増減。
メカニズムの核心:なぜ価格は収束するのか
ETFの市場価格がNAVより高いとする。
中身は1万円分の株式バスケット。
なのに取引所では1万200円で売買されている。
このときAPはこう動く。
- 現物株を1万円分買う
- それを運用会社に渡してETFを新規発行してもらう(設定)
- できたETFを市場で1万200円で売る
差額200円が利益になる。
ここだけ押さえる:APはズレを見ると、利益目的で口数を増やして殴りにいく。
この裁定(価格のズレを利用して利益を取る取引)の結果、市場にETFが供給される。
供給が増えると価格は下がり、NAVに近づく。
逆にETFがNAVより安いときは反対。
- 市場でETFを買い集める
- 運用会社に渡して現物を受け取る(解約)
- 口数が減ることで、市場価格は上がりやすくなる
重要なのは、価格を直接いじっているのは運用会社じゃない点。
裁定機会に反応するAPの行動が、ETF価格の安定性を支えている。
初心者が混同しやすいポイント
「ETFの売買が増える=資金が流入する」
これは誤り。
二次市場で投資家同士が売って買ってるだけなら、口数は増えない。
資金フローとして意味を持つのは、一次市場での設定・解約。
出来高が膨らんでも、口数が増えていなければ資金流入とは言いにくい。
ここを混同すると、需給の読みがズレる。
実際の市場シーンで考える
急落局面でディスカウントが拡大する
相場が急落すると、ETFがNAVより安くなることがある。
多くの場合、原因は現物市場の流動性低下。
APが裁定をやるには、現物をそれなりに売買できないといけない。
市場が混乱すると、現物のスプレッド(売値と買値の差)が広がる。
すると裁定コストが上がって、APが動きにくくなる。
その間は、一時的に乖離が拡大しやすい。
構造が分かっていると、区別できる。
- 仕組みが崩れたのか
- 一時的に裁定コストが跳ねたのか
債券ETFが先に動く
債券市場は取引が分散していて、透明性が低い。
だから債券ETFが価格発見(値段が先に決まる役)をやることがある。
ETF価格が先に動き、現物が後から追随する。
ここでも二重市場構造が効いている。
この理解がもたらす判断力
ETFは「指数に連動する便利な株」ではない。
二次市場という流動性の顔と、
一次市場という価格安定装置を持つ構造体。
この構造が腹落ちすると、判断が変わる。
- ディスカウント拡大で過度にビビらない
- 出来高と資金流入を分けて見られる
- フローが価格形成にどう効くかを読める
- 裁定が機能しにくい局面を察知できる
価格の裏側で誰が動いているのか。
それが見えると、市場の景色は変わる。



