金融セクターは景気が良いと上がる。利上げは銀行に追い風。だから金融株は強い。——こう言い切ってしまうのは簡単だ。
初心者は、ここで話を止めやすい。ニュースも決算も、金融を「景気の鏡」として語りがちだからだ。金利が上がる。貸出金利も上がる。銀行は儲かる。直感としては自然に見える。
しかし、相場はそんなに単純ではない。利上げでも金融が沈む局面はある。反対に、景気が鈍っても金融が踏ん張る局面もある。
差を作るのは景気の物語ではない。見るべきは二つある。イールドカーブ(金利の形、短期と長期の金利を並べた形)と、信用スプレッド(信用の空気、不安の上乗せ幅。安全な金利にどれだけ足すか)だ。
ここだけ押さえる。金融株は、金利要因と信用要因に分けて見ると理解が早い。
この記事でやりたいのは、金融セクターを見るための観測ポイントを決めることだ。値動きを分解できるようにする。読後にできる判断は二つ。
一つ目。金融が動いた理由が、金利(お金を借りるコスト)のせいか、信用(信用スプレッド=不安の上乗せ幅)のせいかを切り分ける。
二つ目。その切り分けに使う指標を、最初から固定する。
たとえば銀行なら、利ざや(貸す金利−集める金利の差)が広がったのかどうかを見る。加えて、イールドカーブの形と、信用スプレッドを同時に置く。つまり「景気がいいから強い」で終わらせず、どの要因が効いたのかを分解して追う、という方針に切り替える。
なぜこの仕組みが存在するのか
金融の仕事はシンプルだ。時間と信用を引き受けて、その差分で稼ぐ。
まず時間の話。銀行は預金のような短期の資金を集める。これを住宅ローンのような長期の貸し出しに回す。短期で集めて長期で貸す。ここで効いてくるのが、短期と長期の金利の差だ。つまり金利の形(イールドカーブ=短期と長期の金利を並べた形)になる。
次に信用の話。相手が必ず返すとは限らない。だから銀行は、その不確実さの分だけ金利(お金を借りるコスト)を上乗せする。信用の空気が良ければ、損失は小さく済む。反対に、空気が悪ければ貸し倒れが増え、利益が削れる。ここで見るのが信用スプレッド(不安の上乗せ幅。安全な金利にどれだけ足すか)だ。
この二つを誰も引き受けないと、経済は詰まる。借りたい人は借りられない。貸したい人も、誰に貸していいか分からない。結果として、取引が回らなくなる。
さらに放置すると、市場の値付けも崩れる。売り買いが細る。お金が動かなくなる。
だから市場は、金融の儲けを左右する「二つの値段」を分けて見るようになった。
一つが金利。時間に値段をつけたものだ。
もう一つが信用。不安に値段をつけたものだ。
金融セクターを見るとは、結局この二つが今どっちに動いているかを確認する作業に近い。言い換えると、「カーブがどう変わったか」と「信用の空気がどう変わったか」を、同じ画面で追うことになる。
構造の全体像を描く
登場人物は4つだけ。
まず1つ目は、中央銀行と債券市場だ。ここが短期金利と長期金利を動かす。金利の水準だけではない。短期と長期の差、つまり形(イールドカーブ=短期と長期の金利を並べた形)も、ここで決まる。
2つ目は、銀行などの金融機関だ。持っているのは資産と負債になる。
資産は貸出や債券。負債は預金や市場からの借り入れだ。
利益はだいたい、利ざや(NIM=銀行の利ざや。貸す金利−集める金利の差)と、貸し倒れ関連のコストで決まる。
3つ目は借り手だ。家計と企業になる。返せるかどうかが信用環境を作る。返せる空気なら損失は増えにくい。反対に、返せない空気なら損失が増える。ここで効いてくるのが信用スプレッド(不安の上乗せ幅。安全な金利にどれだけ足すか)だ。
4つ目は株式投資家だ。投資家は利益だけを見ない。銀行の体力は大丈夫か。将来どれくらい損が出そうか。そこまで込みで株価を付ける。
ここで大事なのは、金利が動く場所と、金融株が動く場所を分けることだ。
金利は債券市場で先に動く。
一方で金融株は、その金利の動きが銀行の利ざや(NIM)にどう効くか、損失にどう効くかを見てから動く。さらに、信用不安がどれくらい広がるかも織り込む。つまり金融株は「金利と信用の通訳」を一回挟んで動く。
だから同じ利上げでも結果は割れる。利上げが追い風になる形もある。逆に、逆風になる形もある。ここを外すと、金融セクターはずっと読みづらいままになる。
メカニズムの核心:何がどう動いて結果が出るか
金融セクターは、原因を2本に分けると読める。
金利の話。信用の話。まずここで分ける。
金利の話:銀行の利ざやが増えるか
銀行は、短い期間でお金を集めて、長い期間で貸したり運用したりする。
だから大事なのは「金利が上がったか下がったか」ではない。短期と長期の差がどうなったか、だ。
イールドカーブ(短期金利と長期金利の並び方)を見る。銀行がうれしいのは、長期が短期よりちゃんと高い形だ。これなら利ざや(NIM=銀行の利ざや。貸す金利−集める金利の差)を取りやすい。
一方で、利上げで短期だけ上がって長期がついてこないと話が変わる。カーブが平らになる。ひどいと逆転する。すると利ざやは、むしろ削られる。
利ざやをまとめて見た数字がNIMだ。銀行の稼ぎは結局ここに出やすい。
ただし、NIMは勝手に上がらない。理由は単純で、銀行が払う側の金利も上がるからだ。
そこで見るのが預金ベータ(政策金利が上がったとき、預金金利がどれくらい上がるかの反応の強さ)になる。預金が逃げそうになると、銀行は預金金利を上げて引き止める。すると調達コストが上がる。結果としてNIMは伸びにくくなる。
信用の話:貸し倒れが増えるか
信用の話はシンプルだ。
相手がちゃんと返せるか、返せないか。
市場がその不安を数字にしたのが信用スプレッド(不安の上乗せ幅。安全な金利にどれだけ足すか)だ。
社債の金利が国債よりどれだけ高いか、その差になる。
差が広がるほど、「返せないかも」という空気が強い。
ただし、ここを債券の話で終わらせるのは危ない。
スプレッドが広がる=借り手の資金繰りが苦しくなっている可能性が高い。
そうなると銀行は守りに入る。貸し倒れに備えて引当を積む。貸し方も慎重になる。
結果として利益が削れる。さらに資本にも効いてくる。
実際に銀行が払う損の合計がクレジットコスト(引当と貸倒損失のまとめ呼び)だ。
引当の増加と、実際の貸倒損失のセットになる。
ここが増えると、金融株は一気に重くなる。
株価が嫌うのは「不況」という言葉じゃない。
損失が想定より増えそうか。結局これだけに反応する。
実際の市場シーンで考える:2023年の米地銀ショック
2023年の春、米国の一部の地銀が急落した。金融セクター全体も一気に荒れた。
当時の前提はこう。政策金利が短期間で大きく上がっていた。短期金利は上がる。ところが長期金利はあまり上がらない。結果として短期と長期の差が縮む。イールドカーブ(短期と長期の金利を並べた形)は平らになりやすく、逆転もしやすかった。
ここで初心者は「利上げ=銀行に追い風」と結論しやすい。けれど、この局面で前に出たのは利ざやの話(NIM=銀行の利ざや。貸す金利−集める金利の差)ではなかった。
最初に起きたのは、銀行が持っていた債券の評価損が膨らむことだった。次に、預金が動いて流出した。要するに「資金繰りが危ないかもしれない」という不安が一気に主役になった。
預金が逃げ始めると、預金ベータ(政策金利が上がったとき、預金金利がどれくらい上がるかの反応の強さ)の細かい話は後回しになる。問題はもっと単純で、安い資金が消えることだ。銀行は高い金利でお金を集め直す必要が出る。NIMが伸びるか以前に、防戦になる。
不安が広がると、信用スプレッド(不安の上乗せ幅。安全な金利にどれだけ足すか)も広がる。市場は「これから貸し倒れ対応のコストが増える」と先回りして織り込み始める。だから金利が高いままでも、金融株は売られた。
この局面の誤判断は2つある。
1つ目。金利の上げ下げだけを見て金融を買うこと。
2つ目。下落を「景気悪化のサイン」で片付けて、金利要因と信用要因に分けて考えるのをやめること。
見るべきものは政策金利のニュースそのものではない。
短期と長期の差(カーブの形)。信用スプレッドの広がり方。預金が安定しているか。ここを見る。
この理解がもたらす判断力
まず、原因を2択にできる
金融が上がった。下がった。
理由はまず2つに分けて考える。
金利が理由か。信用が理由か。
たとえば、金融が上がっているのに信用スプレッド(不安の上乗せ幅。安全な金利にどれだけ足すか)が広がっている。
この場合、信用が良くなったから上がったわけではない。むしろ金利の形(イールドカーブ=短期と長期の金利を並べた形)が良くて、利ざや(NIM=銀行の利ざや。貸す金利−集める金利の差)が増えそう、と見られている可能性が高い。
逆に、金利が落ち着いているのに金融だけ崩れることもある。
この場合は、貸し倒れ不安や資金繰り不安が前に出ている、と疑える。
見る順番が決まる。ニュースに振り回されにくい
金融を見るとき、政策金利の見出しから入るとブレやすい。
だから見る順番を固定したほうが楽だ。
見るのはこの順になる。
① 短期と長期の差(イールドカーブの形)
② 利ざやが伸びそうか(NIMの方向)
③ 不安が増えていないか(信用スプレッド)
④ 損失が増えそうか(クレジットコスト=引当と貸倒損失のまとめ呼び)
毎回この順で見る。これだけで解釈が安定する。
金融ETFを「同じ金融」として扱わなくなる
金融ETFでも中身はバラバラだ。
銀行が多いETFは、利ざや(NIM)と信用で動きやすい。
一方で、保険や資産運用が多いETFは、長期金利や株式市場の売買の活発さでも動く。
同じ金融でも、動かす材料の割合が違う。
だから同じタイミングで同じ値動きになるとは限らない。



