株式ポートフォリオに債券ETFを加えようとしたとき、「どれを選べばいいか」より先に「そもそも何のために持つのか」が整理できていないと、銘柄を眺めてもピンとこない。この記事を読むと、3種類の債券ETFがそれぞれ何を担っているかを金利感応度の軸で整理でき、自分のポートフォリオでの使い方を判断する材料が手に入る。
債券ETFは「利回りをもらうための資産」ではなく、「株式の下落時に値動きを和らげるための緩衝材」として設計に組み込む。どの種類を選ぶかは、金利への感応度と想定するリスクシナリオで決まる。
債券ETFを持つ理由は「利回り」ではない
なぜ債券ETFを持つのか、と聞かれると「安定した利回り(今の値段に対する受け取り割合)が得られるから」と答える人が多い。気持ちはわかるが、それだと用途の半分しか見ていない。
債券ETFの本来の役割は、ポートフォリオ全体のボラティリティ(値動きの大きさ)を下げることにある。株式が大きく下落するとき、安全資産とされる国債には資金が流入し、価格が上がる傾向がある。この「逆相関」がポートフォリオのドローダウン(ピークからの下落率)を抑える。
2020年3月のコロナショック時、全世界株ETFが1か月あまりで約30%下落したのに対し、先進国国債ETFはその期間、値を保つか小幅上昇するものが多かった。同じ資金が株から国債へ逃避する動きがあったためだ。
判断の軸としては、こうなる。「利回りを取りたい」なら社債ETFや高配当ETFの方が素直な選択肢だ。一方、「株式の急落時に全体の損失を抑えたい」なら、国債系の債券ETFを緩衝材として持つことに意味がある。どちらの目的で債券ETFを使うかを最初に決めることが、種類選びの起点になる。
金利感応度で3種類を整理する
債券ETFの種類を比べるとき、利回りの高低より先に確認したいのが金利感応度、つまり「金利が動いたときに価格がどれだけ変わるか」だ。これを示す指標がデュレーション(修正デュレーション)で、数値が大きいほど金利変動の影響を受けやすい。
以下に3種類の特徴を整理する。
| 種類 | デュレーション目安 | 金利上昇時 | 金利低下時 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 総合債(中〜長期国債+社債混合) | 5〜8年程度 | 価格下落しやすい | 価格上昇しやすい | 株との分散 |
| 短期国債 | 1〜3年程度 | 影響小さい | 影響小さい | 現金代替・守り |
| インフレ連動債(TIPS等) | 5〜8年程度だが物価連動 | 実質金利次第 | 同左 | インフレヘッジ |
総合債ETFは国内でも複数の選択肢がある。たとえば東証に上場している先進国債券ETFや、NISAの成長投資枠で使える投資信託(ニッセイ・野村などの先進国債券インデックスファンド)が該当する。デュレーションが長い分、金利低下局面では価格上昇の恩恵を受けやすく、株式急落時の逃避買いにも乗りやすい。反面、金利が上昇し続ける局面では価格が下がる。
短期国債ETFはデュレーションが短く、金利変動の影響を受けにくい。値動きの大きさは小さいが、株との逆相関も弱まる。「キャッシュポジションをやや運用したい」「暴落時の資金確保目的」で持つ使い方が合う。国内の純粋な短期国債ETFは選択肢が少なく、コスト・流動性の観点から米国ETF(SHVやBILなど)が参照されることがあるが、為替リスクを伴う点は注意が必要だ。
インフレ連動債ETFは元本や利息がインフレ率に連動して調整される国債に投資する。物価が上がると価値が増す仕組みで、インフレが続く局面での実質購買力の目減りを防ぐ。国内での選択肢は限られており、東証上場の純粋なTIPS ETFはほぼ存在しない。この理由から、インフレヘッジ目的では米国ETF(TIPやSTIP)が参照されることが多いが、こちらも為替の影響を受ける。
「下落時の緩衝材」として機能する条件
株と債券が「逆相関になる」と言われるが、それは常に成立するわけではない。条件がある。
逆相関が機能しやすいのは、「景気後退や信用不安による株式下落」の局面だ。投資家がリスクを避けて安全資産の国債に資金を移すため、株が売られると国債が買われる。
一方、逆相関が崩れやすいのは「インフレ高進による金利急騰」の局面だ。2022年はその典型で、FRBの急速な利上げによって株式も債券も同時に下落した。この局面では総合債ETFもドローダウンし、緩衝材としての機能が低下した。
では、どう判断するか。
「株式のリスク(想定よりブレる可能性)を分散(複数に分けてリスクを薄める)したい」という目的で債券ETFを持つ場合、景気後退シナリオに備えるなら総合債または長期国債ETF、インフレ継続シナリオに備えるならインフレ連動債ETF、そして「どちらのシナリオでも激しく動いてほしくない」という守りの目的なら短期国債、という使い分けが一つの整理になる。
シナリオを一つに決める必要はなく、複数の種類を小さく組み合わせることで、特定のシナリオへの集中リスクを避けることもできる。
国内ETFでどこまでカバーできるか
読者の多くはNISA口座での運用を前提にしているはずで、東証上場ETFや国内投資信託の範囲で考えるのが現実的だ。
総合債については、国内の選択肢が充実している。たとえば「上場インデックスファンド海外債券(FTSE WGBI)毎月分配型(銘柄コード:1677)」や、同様の指数に連動する投資信託は信託報酬(ETFを保有している間かかる年間コスト)も低水準になってきており、NISAで使いやすい環境が整っている。
インフレ連動債については、前述のとおり東証上場の純粋な商品がほぼない。これが米国ETFを参照せざるを得ない理由だが、NISA口座での米国ETF購入は可能な証券会社もあるため、コストや為替リスクを承知の上で選択肢に入れることはできる。
短期国債についても国内選択肢は乏しく、代替として国内の短期債ファンドや個人向け国債(変動10年)が挙げられることがある。個人向け国債はETFではないが、金利上昇に強く元本保証があるため、「短期国債ETF的な役割」を求める場合の現実的な選択肢の一つになりうる。
AUM(ETFが運用している資産の総額)が小さいETFはスプレッド(売値と買値の差)が広がりやすく、売買コストが見えにくい形でかさむ。選ぶ際は純資産残高と出来高も確認しておきたい。
よくある誤解
「債券ETFを持てば安全になる」という理解は、条件付きでしか正しくない。
債券ETFが安定資産というイメージから、「株式に加えて債券ETFを持てばリスクが下がる」と考えやすい。2020年以前のデータを見ると確かにその傾向が強かったため、この誤解は根拠なしとは言えない。
ただ、2022年のように金利が急上昇する局面では、総合債ETFも短期間で10〜15%程度下落した。株式と同時に値下がりし、緩衝材として機能しなかった。
誤解の核心は「どんな局面でも株と逆に動く」と思い込むことにある。実際は「金利上昇でない株式下落局面」では逆相関が働きやすいが、「金利主導の調整局面」では相関が正になることがある。
では何をするか。債券ETFを組み込む際は、「どのシナリオに備えるか」をあらかじめ整理しておく。インフレヘッジが必要ならインフレ連動債を、景気後退に備えるなら総合債または長期国債を、キャッシュの代替として値を保たせたいなら短期国債を、という目的ごとの配置が、「なんとなく混ぜる」よりずっと機能する。
まとめ
債券ETFを持つ理由は利回りではなく、株式下落時の緩衝材としての役割にある。3種類の使い分けは金利感応度と想定シナリオで決まり、総合債・短期国債・インフレ連動債はそれぞれ異なるシナリオに対応する。目的を決めてから種類を選ぶ、という順番が崩れると、何を持っているかわからないポートフォリオになりやすい。
次は、株式ETFと債券ETFの比率をどう設定し、どのタイミングでリバランス(配分比率を元の設定に戻す作業)するかを整理した「コアポートフォリオの比率設計と見直しタイミング」も参照してほしい。
「利回り」で選ぶな、
「目的」で選べ。
株式ポートフォリオに債券ETFを加える本当の理由は、安定した利回りを得ることではありません。 本来の役割は、株式が下落した時の「緩衝材(クッション)」です。 金利感応度(デュレーション)を軸に、あなたのポートフォリオに必要な「守り」を見つけましょう。
よくある誤解
「債券ETFを持てば、どんな時でもリスクが下がり、安定した利回りがもらえる」と考えてしまう。
正しい理解
「株式急落時の損失を抑える」ために持つ。どのシナリオ(不況・インフレ)に備えるかで種類を決める。
金利感応度で選ぶ3つの選択肢
債券ETF選びの最大の基準は「デュレーション(金利感応度)」です。 これが長いほど、金利変動による価格のブレ幅が大きくなります。 以下のカードをクリックして、それぞれの特徴を確認してください。
総合債 ETF (中〜長期国債+社債)
最も標準的な分散投資のパートナーです。景気後退局面では、株が売られて国債が買われるため、価格が上昇しポートフォリオの損失を埋め合わせます。
金利感応度(デュレーション)の比較
数値が大きいほど、金利変化による価格変動が大きい
緩衝材が「機能する時」と「しない時」
「株と債券は逆に動く」というのは条件付きです。 シナリオによって、あなたの選んだ債券ETFがどう振る舞うかシミュレーションしてみましょう。
解説: 景気後退シナリオ
投資家がリスクを避けて安全資産(国債)に逃げるため、株が下がると債券が上がります。ここで「総合債」はクッションとして最大限に機能します。
目的別・選び方の結論
最後に、あなたが「何に備えたいか」でポートフォリオへの組み込み方を決めましょう。 シナリオを1つに絞る必要はなく、複数を組み合わせることで特定のシナリオへの集中リスクを避けることも可能です。
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景気後退に備えるなら
総合債または長期国債ETF (AGG, BND, 1677など)
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インフレ継続に備えるなら
インフレ連動債ETF (TIP, STIP)
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現金の代替・とにかく守りなら
短期国債ETF (SHV, BIL) または個人向け国債(変動10年)
チェックリスト
次は「株式と債券の比率リバランス」について検討しましょう。

