セクターETFの選び方を調べると、たいていは銘柄の比較から始まる。構成銘柄、信託報酬、利回り。数字は並べやすく、比較表にすれば選んだ気になれる。
だがセクターETFで迷う理由の大半は、銘柄の側にはない。 どのセクターを持つかを決める前に、決めておくべきことが3つある。そこが空白のまま銘柄を比べても、比較の基準そのものが定まらない。
この記事は、その3つの分岐を示す案内板である。個別の銘柄については扱わない。 分岐ごとに、判断の材料になる記事へ送る。
銘柄の比較から入ると、なぜ決まらないのか
セクターETFは「市場全体を買う」商品ではない。市場の一部を、意図的に厚くする商品である。
ここが全世界株や S&P500 を土台に持つ場合との違いになる。土台は「市場全体をそのまま持つ」ことが理由なので、理由が崩れる場面が少ない。セクターETFは特定の産業を厚くする判断が入るぶん、その判断が有効なままかを見直す必要が出てくる。
比較表が答えを出せないのはこのためである。信託報酬の差はどの記事でも調べられるが、「そのセクターを厚くする理由が自分にあるか」は表に載らない。
以下の3つは、銘柄を開く前に決まっている。
- 何のために持つのか … コアの補完か、局面への賭けか
- 景気局面に賭けるのか … 賭けるなら、何を見て判断するのか
- どのくらいの比率で持つのか … 比率を先に決めるのか、後から決めるのか
順番にも意味がある。1が決まらないと2の必要性が判断できない。3はどちらの場合にも必要で、局面に賭ける場合だけ、分岐2で決めたことが比率を考える材料に加わる。
3つは択一ではなく、順に決めていく判断である。分岐2は分岐1の一方からだけ派生する。
迷いの出方で、読む場所が変わる
- 銘柄名で調べている(中身やコストを比べているが決まらない)… 止まっているのは銘柄の側ではない。分岐1へ
- 配分を考えている(土台は決まっていて、どこを厚くするか迷う)… 目的は実質「補完」で決まっている。分岐3へ
- すでに持っていて不安(買ったあとに下げた)… 買う前の分岐が空白のまま来ている。分岐1へ。保有中の迷い全般は 持ち続ける判断の全体像 に整理している
分岐1:何のために持つのか
最初の分岐は目的である。ここで大きく2つに分かれる。
コアの補完として持つ場合。 全世界株や S&P500 を土台に置いたうえで、特定の産業を意図的に厚くする。この場合、判断の対象は「その産業が今後強いか」ではなく「土台と足したぶんの合計が、望む比率になっているか」になる。
土台にも同じ産業は含まれている。セクターETFを足すとは、その重複を承知で比率を上げる行為である。 したがって見るべきは重複の有無ではなく、足したあとの合計比率になる。ここを見ないと、意図した以上に偏ることがある。なお「薄い」は主観になりやすいので、何と比べて薄いのか(市場全体の構成か、自分が望む配分か)を先に決めておく。
局面への賭けとして持つ場合。 相場の局面が変わることを見込んで、特定のセクターを厚くする。この場合は分岐2が必須になる。何を見て入り、何を見て降りるかを決めていないと、値動きに合わせて判断が揺れる。
この2つは持ち方も見直し方も違う。 補完なら土台との合計比率を見ていればよく、賭けなら前提が崩れた時点で見直すことになる。目的を決めないまま買うと、下げたときに「補完だから持ち続ける」と「賭けだったから降りる」のどちらを取るべきか分からなくなる。
両方が混ざっている場合
「土台で薄い気がする」と「今後強そうだ」が同時にあることは多い。混ざったままにせず、理由ごとに枠を分ける。
- 「土台の業種構成を確認したうえで、この産業を意図的に増やしたい」… 補完の枠
- 「今後この産業が強そうだから」… 賭けの枠
- 「理由を一文で書けない」… まだ銘柄比較に進まない。 書けるまでが分岐1
枠を分けておくと、賭けの前提が崩れたときに、その枠のぶんだけを見直せる。分けていないと全部持ち続けるか全部降りるかの二択になる。
インカムや値動きの調整を目的にする場合もある。いずれも、崩れたと判断する条件を書けるかが分かれ目になる。
決めるための材料は2本ある。
- セクターローテーションとは何か:価格の強弱ではなく「資金配分の移動」で読む … セクターを厚くするという行為が、市場全体の中で何を意味するのか。「強い業種が順番に上がる」という理解では目的を立てられない
- 景気敏感・ディフェンシブの二分法で11セクターを読む:当たる局面と外れる局面の見分け方 … 産業を大きく2つに分ける見方と、その見方が通用しない局面。賭ける側かどうかを決めるとき、この区分がどこまで使えるかを先に知っておく
分岐2:景気局面に賭けるのか、賭けないのか
賭けないという選択がある。これは消極的な選択ではない。 局面に賭けるとは、局面を判定し続けるということだからだ。判定を続けられないなら、賭けない側のほうが運用の方針はぶれにくい。ただしこれは収益や値動きが安定するという意味ではない。 分岐1で「コアの補完」を選んだなら、ここは賭けない側で完結する。
見分け方は、買った理由を一文で書いてみると分かる。
- 「土台の業種構成を見て、この産業を増やしたい」… 賭けない側
- 「金利が下がりそうだから」「これから伸びる産業だから」… 賭ける側(局面や見通しが理由に入っている)
- 「人気があるから」「よく名前を見るから」… どちらでもない。 分岐1に戻る
理由に相場や景気の見通しが入っていれば賭ける側である。見通しが入っているかどうかで判定できる。
賭ける側を選ぶなら、決めることが2つ増える。
何を見て判断するか。 単一の指標では局面を判定できない。価格の強弱だけ、資金の出入りだけ、金利だけ、といった見方は相場の一部しか映さない。複数の材料をどう組み合わせるかを、買う前に決めておく必要がある。
教科書どおりに動かない場合をどう扱うか。 景気循環とセクターの対応表は広く出回っているが、そのとおりに動かない局面を例外として無視すると、判断は当たり外れを繰り返す。
材料は4本ある。前の2本が「賭け方を決める」もの、後の2本が「資金の動きを読み違えない」ものになる。
- 景気循環モデルのセクターローテーションはなぜ外れるのか:教科書テンプレと現実のズレを見抜く … 対応表が外れる仕組み。賭ける側を選ぶなら、外れる条件を先に知っておくほうが安全
- セクターローテーションの指標設計:役割分担の考え方 … 「これさえ見れば」という単一指標を探すのをやめ、複数の材料に役割を分ける考え方
- 資金滞留とは何か。ETF資金フローで「流入が残る条件」を3日・10日・20日で見抜く … 入った資金が残るかどうかの見方。短期の売買と中長期の保有を区別する
- フロー分析の誤読パターン集——地雷を踏む前に知っておくこと … 資金の出入りを判断材料にするときの典型的な読み違い
賭けない側を選んだなら、この4本は今は要らない。 分岐3へ進んでよい。
なお、賭ける側を選んだあとに判定を続けられなくなることがある。このとき「判定をやめたから補完に変わった」とはならない。 賭けとして買ったものは、賭けの前提が生きているかどうかで扱いが決まる。
取れる形は2つある。降りるか、補完として持てる比率まで減らして残すかである。どちらにするかは、そのセクターを土台の一部として持ち続ける理由が別にあるかで決まる。理由が無いなら、判定をやめた時点で持つ根拠も無い。
先に枠を決めてあると、この場面で「いくらまで残すか」が既に決まっている。
分岐3:どのくらいの比率で持つのか
比率の決め方には、順序の異なる2通りがある。
先に比率を決める。 土台に対してセクターへ回す上限を決めてから、その枠内で銘柄を選ぶ。枠が決まっているので、良さそうな銘柄を見つけるたびに増えていく事態を防げる。
後から比率を考える。 持ちたいセクターを決めてから、どれだけ入れるかを考える。個別の事情に合わせられるが、枠が無いぶん増えやすい。
後から決める形が向く場面もある。土台がまだ小さく、積み立てで大きくなる段階では、先に比率を固定しても分母が動く。この場合は金額の上限で決めるほうが実務的である。
逆に土台ができているなら、先に決める形が向く。どちらを取るかは決めておく。 決めていないと実際には後者になり、銘柄を調べている最中に比率を決めることになる。調べた労力が判断に混ざる。
比率と同時に、降りる条件を決める
比率を決めるとき、あわせて決めておくものがある。何が起きたら降りるかである。
厚くした理由が消えれば持つ根拠も消える。ところが理由が消えたことは値動きに即座には現れない。下げているから降りる、上げているから続けるという判断に流れやすいのはこのためである。
見直す条件の方向は、分岐1で決めた目的から決まる。
- コアの補完として持った場合 … 土台の中身が変わって合計比率がずれたとき。この場合の対応は全部を降りることではなく、枠に戻すまで減らすことが多い
- 局面への賭けとして持った場合 … 賭けた前提が崩れたとき。たとえば「金利低下を見込んで買ったが、その見通しが変わった」場合である。分岐2で決めた材料が、その判定に使われる
「減らす」と「降りる」は分けておく。 比率のずれは減らせば戻るが、前提が崩れた場合は減らしても持つ根拠は戻らない。
実際には税や資金の都合、他の資産とのバランスも関わる。目的が決めるのは方向までで、条件はそのつど書き足すことになる。 それでも目的が決まっていなければ最初の一行が書けない。分岐1を先に置いているのはこのためである。
そのうえで、厚くしようとしているセクターが何で動くのかを説明できるかを確認する。説明できれば必ず区別できるわけではないが、説明できないままだと、下げたときに「一時的な下げ」なのか「前提が崩れた」のかを考える手がかりが無い。
セクターごとに、動く理由の構造は違う。下の4本は、迷いの形から選ぶ。
- 米国金融セクターは「金利が上がれば強い」で読めない:利ざやと信用環境で値動きを分解する … 「金利が上がれば金融は強い」で判断してよいか迷っているとき
- 米国資本財(Industrials)を読む:設備投資サイクルと受注で景気の先を掴む … 景気の数字が良くなってから買うのでは遅いのか、と迷っているとき
- 素材セクターはなぜ「景気の体温計」になりやすいのか:コモディティ・中国需要・在庫循環で読む構造 … 原油や金属の値段を見て判断してよいか迷っているとき
- 一般消費財と生活必需品はなぜ別物か|景気感応度を「所得×信用×値上げ」で分解する … 「消費関連」でひとまとめにしてよいか迷っているとき
ほかのセクターは セクターの基礎 に、配分の考え方は セクター配分の考え方 にまとめている。
個別の銘柄を見る段になったら
3つが決まってはじめて、銘柄の比較が意味を持つ。同じセクターでも、指数の母集団が違えば中身が変わる。比較の型は XLV vs VHT|「S&P500ヘルスケア集中」か「全米ヘルスケア分散」かで選ぶ が分かりやすい。どの範囲を切り出すかで別物になるという論点は、他のセクターにも当てはまる。
銘柄ごとの構成銘柄・信託報酬・分配金は 米国ETF|セクター にまとめている。
3つが決まると、何が変わるか
決まっていない状態では、下げれば「今が買い増しか」を調べ、上げれば「利益確定か」を調べることになる。調べる対象がそのつど変わり、判断が相場の側に引っ張られる。
3つが決まっていると、見るものが固定される。補完なら合計比率と枠、賭けなら分岐2で決めた材料。確認する対象が減ることが、決めておくことの実利である。
逆に、決めようとして決まらない場合もある。多くは「そのセクターを厚くしたい理由が、漠然とした値上がりへの期待だけ」というときである。漠然とした期待は、崩れたかどうかを判定できない。 判定できなければ見直す条件も書けない。広く分散された土台へ集約すれば、そのぶん局面の判定と見直しは減らせる。
迷いが「どの銘柄か」の形で出ているときほど、実際に決まっていないのは分岐1であることが多い。 銘柄の比較で答えが出ないと感じたら、目的の側に戻るほうが早い。
次にやること
読み終えたら、今持っている土台の商品名と、セクターETFを足したい理由を一文で書く。 そのうえで進み先を選ぶ。
| 書いた理由 | 次に読む1本 |
|---|---|
| 「土台の業種構成を見て、この産業を増やしたい」 | セクターローテーションとは何か で、厚くする行為の意味を押さえる |
| 「今後この産業が強そうだから」 | 景気循環モデルのセクターローテーションはなぜ外れるのか で、外れる条件を先に見る |
| 「もう持っていて、続けるか迷っている」 | 持ち続ける判断の全体像 で、迷いの層を切り分ける |
| 一文で書けなかった | 銘柄比較に進まない。 分岐1に戻る |
この記事が扱わないこと
案内板の役割に絞るため、次は各記事の側に置く。
- 個別銘柄の構成銘柄・比率・信託報酬・分配金 … 銘柄ごとの記事で扱う
- 各セクターの読み方の詳細 … 上記のセクター別記事で扱う
- 判断に使う指標の設計 … 指標設計の記事で扱う
- 推奨セクター・推奨比率 … 一般解が無いため示さない
